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裏切りの記憶とふたつの家族 / 第4話:新たな旅立ちと家族の断絶
裏切りの記憶とふたつの家族

裏切りの記憶とふたつの家族

著者: 安積 亮


第4話:新たな旅立ちと家族の断絶

空は次第に暗くなっていった。

庭の灯篭に火がともり、夜風が木々を揺らした。

紅子が灯りを持って先導し、私は咲良の手を引いてゆっくりと外を歩いた。

草の匂い、遠くで鳴く蛙の声。子供の頃を思い出させる夜だった。

彼女はたくさんの話をしてくれた。

学校での出来事、白石家での思い出、父とのわだかまり……途切れることなく言葉が溢れた。

誠は、彼女と駿の心を得るため、わざと私に似た女性を探したこと。

藤音はあまり彼女を束縛しないが、何も学ばせようとしないこと。

咲良は私を見上げ、澄んだ目で言う。「でも藤音さん自身は、書や絵や家事のことを学び続けてるの。」

その瞳の奥には、複雑な感情が渦巻いていた。

藤音は無知でも頑なでもない。

すべてを理解しているのだ。

私はその意図を悟り、無意識に咲良の手を強く握った。

娘の手の温もりが、私に力を与えてくれる。

数歩進むと、最も会いたくない人物と出くわした。

廊下の明かりが揺らめくなか、誠が立っていた。

誠が廊下の下に立ち、灯りに半分照らされた顔で言う。「藤音は何も恨んでいない。西の中庭を整えさせたので、今夜はそこで休め。」

彼の声はどこか命令口調で、距離を感じさせた。

西の中庭は、長く誰も住んでいなかった。

私は眉をひそめた。「西園寺家には泊まらないわ。」

短くきっぱりと言い切った。

誠は鼻で笑い、強い口調で言う。「ここに泊まらないなら、どこへ行くつもりだ?尚美、君は西園寺家の正妻として戸籍に名を連ねている。戻ってきてまた出ていくつもりなら、両家の顔はどうなる?」

彼の言葉には、家の体面を守りたいという思いが滲んでいた。

咲良はタイミングよく私の袖を引き、見上げて言う。

「お母さん、青森へ行かないの?」

その言葉に、私の決意はさらに強まった。

私は誠を無視し、頭を下げて微笑んだ。「行くわ、青森へ。」

新しい人生への扉が、静かに開かれるのを感じた。

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