第2話:家族の再会とすれ違い
私が戻ったその日、誠は私を迎えるために区役所を休んでいた。
朝早くから正装し、玄関で静かに待っていたという。私が門をくぐると、彼は表情を変えずに一礼した。
彼は二歩離れて立ち、穏やかな口調で昔話を始めた。
和室の障子ごしに差し込む朝日が、どこか懐かしく感じられた。
「咲良は今や君によく似ている。ただ、最近は白石先生から絵を習っているので、今日は迎えに来られなかった。」
「駿は……」
彼は言葉を切った。
「君がいなくなった時はまだ幼くて、今はもう君の顔も覚えていない。」
静かな間が流れ、誠の横顔がほんのわずかに寂しげに見えた。
咲良は私の長女、駿は次男だ。
私が崖から落ちた時、咲良は三歳、駿はまだ一歳だった。
あの頃は、まだ子供たちの手をしっかりと握っていた日々が思い出される。
彼が私を覚えていなくても無理はない。
写真の中の母親しか知らないのだろう――私は、そんな現実に胸が締めつけられる。
子供たちの話になると、私の心も柔らかくなる。
彼らのことを思い出すだけで、胸の奥が温かくなるのだった。
この五年、私は記憶を失い、誠は再婚し、私も新たな家庭に入った。
年月が流れ、私たちはそれぞれの道を歩んできた。それでも、時がすべてを癒すわけではなかった。
もう戻る理由はなかった。
だが、子供たちだけはどうしても忘れられなかった。
その小さな手、無邪気な笑顔――それらだけが、私を都へと導いたのだ。
誠の声が低くなる。「もう聞いているだろう。四年前、僕は再婚した。」
彼は静かに私の目を見つめ、声を落として続けた。
私は彼の方を向いた。
新しい妻の話になると、彼の表情は柔らかくなり、目元に優しさがにじむ。
藤音の名を口にするたび、彼の声はどこか温かく、私にはかつて向けられていたものが今は彼女に向いているのだと感じた。
「藤音は……まあ、いろいろ不器用で、体もあんまり丈夫じゃない。頼むよ、変なこと言わずに、優しくしてやってくれ。」
その一言一言が、藤音をかばっているのが痛いほど伝わる。
私は一瞬呆然とし、そっと答えた。
「どうして彼女に意地悪をする必要があるの?」
声には力を入れなかった。自分でも不思議なほど、心は静かだった。
二人は仲睦まじい夫婦で、私にも夫がいる。
互いに別の道を歩むべきなのだろう、と自分に言い聞かせた。
子供たちが西園寺家に残っていなければ、私は戻ってこなかっただろう。
あの家の空気は、もう私のものではない。