第7話:病院の夜、奪われた希望
病院、午後3時。
長野市内の県立病院、救急入口のベンチに母が肩を落として座っていた。
私は、救急室の外の椅子でうずくまる母の肩を抱いた。
母の肩は小刻みに震えていた。
「お母さん。父さんはどうなったの?」
声を絞り出すように問いかけた。
母は私の顔を見るなり、涙を流した。
「今朝、田中さんのところにお金を借りに行ったんだけど、霧が濃くて道が見えず、橋の柱にぶつかったの。車の前がめちゃくちゃよ。」
母の声が震え、涙が頬を伝う。
「父さんは無事なの?先生は何て?」
じっと母の目を見ると、目尻が真っ赤に腫れていた。
「分からない。先生はまだ出てこない。父さんは午後ずっと手術中よ。」母の目は真っ赤に腫れていた。「もし父さんに何かあったら、私はどうすればいいの……」
背中をさすり、「大丈夫、父さんは絶対助かる。俺がずっとそばにいるから。」
自分の声が震えているのが分かった。
自動ドアが開くたび、冷たい風が足元を抜けていく。待合室の空気はどこか湿っていた。
私は美咲の父親を睨みつけた。
彼らは父の事故を聞いて病院に駆けつけてきた。最初は心配してくれているのかと思い、少し温かい気持ちになった。しかし、次の一言でその期待は打ち砕かれた。
「こんな時に、どうして義父さんはお金を借りに行ったんだ?」
顔をしかめて、まるで他人事のような口ぶりだった。
私はもう我慢できなかった。
「もしあなたたちが値上げしなければ、父さんはお金を借りに行かなかった。借りに行かなければ、事故にも遭わなかったはずだ!もし父さんに何かあったら、絶対に許さない!」
声が思わず大きくなる。病院の廊下が静まり返った。
「おいおい、父さんの事故を俺のせいにするのか?銃を突きつけて無理やり行かせたわけじゃないだろう?」父親は言った。「一人っ子なのにケチだよな、家を売ればいいのに。」
長野弁のなまりが、さらに冷たく響いた。
私は怒りで震え、殴りかかりそうになった。
拳を握りしめ、必死に自制した。
その時、医者が出てきた。
白衣の影が差すと、全員の視線が一斉に集まった。
「患者さんの容体は楽観できません。もう一度手術が必要です。ご家族で相談してください。肋骨と両腕が骨折、下腿骨は粉砕骨折です。」
「一つ目の方法は、医療用チタン合金フレームで折れた脛骨を置換します。成功率は高く、後遺症もほぼありませんが、費用は180万円ほど。回復が順調ならもっと安く済むかもしれません。」
「二つ目は、通常の手術で鋼釘を使って骨を固定し、自然治癒を待つ方法です。時間がかかり、雨の日は痛みが出る可能性も。半年から1年は力仕事ができません。年齢を考えると後遺症のリスクもあります。」
「ただし、保険を使えば7〜8万円で済みます。」
田舎の病院でも、治療方針の選択は家族の経済力を問われる。
「一つ目でお願いします。費用は何とかしますから、父を助けてください。」
涙声で頭を下げた。
医者はうなずいた。「ではすぐに支払い手続きをしてください。」
お辞儀をして、急ぎ足で手術室へと消えていった。
——ここから、希望と絶望のすべてが交錯する夜が始まった。
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