第8話:金と愛の終着点
医者が去った後、私は美咲に言った。「とにかく、まずお金を返してくれ。支払いが必要なんだ。父に何かあったら困る。」
切羽詰まった声だった。
美咲は後ずさった。「そのお金は……私の手元にないの。」
戸惑いと哀しみが、彼女の表情に滲んでいた。
今度は父親に向き直った。「お金は?」
語気を強めて尋ねた。
父親は「急いで来たから、銀行カードを持ってきていない」と言った。
親戚たちの視線が一斉に集まり、重苦しい沈黙が流れる。私は無意識に手を拳に握っていた。
「じゃあ、PayPayかLINE Payで振り込んでください。」
スマホを差し出し、送金画面を開く。いまどきは田舎でもキャッシュレスが当たり前だ。
私はスマホを差し出し、送金を待った。
父親は渋い顔をして動かなかった。
「今お金が必要なのは分かるが、あれはもう美咲の結納金だ。うちのものだ。使いたいなら借用書を書け。」
頑なな態度に、周囲もざわめき始めた。
弟がナースステーションから紙とペンを持ってきて私に差し出した。
白衣姿の看護師が怪訝そうな顔でこちらを見ている。周囲の患者たちも一瞬手を止めてこちらを見ていた。
「利息は大したことない。年2%でどうだ?」
どこか芝居じみた提案に、唇がひきつる。
私は紙を丸めて弟の口に突っ込んだ。「借用書なんて書くか——」
看護師や周囲の患者が驚いた表情でこちらを見ている。病院内の空気が一瞬凍りついた。
怒りと悲しみがごちゃ混ぜになり、手が震えていた。ベンチの上で、涙を堪えるしかなかった。
——この夜が、人生のすべてを奪っていく。
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