第5話:涙の夜、誓いの言葉
その夜、私は眠れなかった。
ホテルの薄暗い照明と、遠くの除雪車の音が夜を埋めていた。
美咲のLINE画面を開き、長文を打っては一字ずつ消した。
「ごめん」「どうして」「話したい」と、いくつもの言葉が行き場を失った。
今日の彼女の冷たさに腹が立った。
だが、苛立ちの奥に、彼女の立場の複雑さも理解できた。
でも、結局は彼女の両親だ。自分が同じ立場なら、どうしたらいいか分からないだろう。
日本の家制度や親子関係は、個人の力だけではどうにもならない壁がある。
その時、美咲からビデオ通話がかかってきた。
「え、こんな夜中に?」と驚きながら通話を取った。
画面は暗く、おそらく隅でこっそりかけてきたのだろう。
彼女の息遣いがかすかに聞こえる。実家の壁越しに、誰にも知られないようにと配慮したのか。
「無事に着いた?」と彼女が聞いた。
「うん、大丈夫。今日は本当に嫌な思いをした。全部決まっていたのに、なぜ急に値上げしたの?」
声のトーンは自然と低くなった。
「ここでは普通のことよ。それに、持参金もあるから。」
彼女の声が震えていた。
「持参金って?」
「布団や枕とか、そういうもの。」
嫁入り道具の伝統が、まだこの町に生きていることに驚く。
私は絶句した。「それで公平だと思うの?」
古い慣習の重さに、思わず言葉が詰まる。
彼女は突然泣き出した。「私を育てるのは大変だったの。結婚したら私はあなたの家の人間になる。自分を捧げるのよ、これ以上何を望むの?」
「ごめん」と呟きながら、彼女の涙が心に沁みた。
その涙に心が和らいだ。
コロナ禍で会社が倒産し、社員に給料を払った後も200万円以上の借金が残った時期があった。
あの冬の夜、ストーブの火もつけられずに、カップ麺と冷たい布団だけで震えていた日々を思い出す。
絶望的な日々で、ゲームとYouTube、カップ麺漬け。急性胃炎になり、病院に行くのも怖くて家で苦しんでいた。
そんな私を食事や看病で支えてくれたのが美咲だった。夜はお腹をさすって子守唄まで歌ってくれた。
「だいじょうぶだよ」と、あの細い手が背中をさする温もりが忘れられない。
ある夜、トイレに起きると、彼女が私の上で寝落ちしていた。眠りながらも私をしっかり抱きしめ、「大丈夫、全部うまくいくよ」と呟いていた。
「君がいれば何とかなる」——その思いだけで乗り越えた夜もあった。
その温かい手を握りしめ、私はただ一つ思った——
「この子と絶対に結婚しよう。」
「分かった、泣かないで。話し合えばきっと解決できる。」
小さくうなずく彼女の横顔が、画面越しでも伝わってきた。
彼女はすすり泣きながら「本当に結婚してくれる?」
「するよ。」
——この夜の約束が、やがてすべての運命を塗り替えることになる。
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