第4話:別れと新たな門出
軍営の遊女たちが解散されると聞いて以来、伊達蒼真は多くの男が私を連れて行きたいと密かに申し出ていることを知っていた。
朝の空気の中、男たちの視線が私に集まるのを感じていた。けれど、伊達蒼真は一度も口にせず、ただ静かに私を見ていた。
だが、彼は一度も尋ねず、所有を主張することもなかった。
まるで、私が他の誰かと行くはずがないと信じているかのように。
その無言の自信が、私には重く感じられた。
彼は私の耳を噛んだが、私は顔を背けた。
彼の息遣いが耳元に残る。それでも私は、彼の体温を遠ざけた。
彼は鼻で笑った。
「相変わらず気が強いな。」
「俺が姫と結婚しても、俺たちの関係は変わらない。城外に洋館を買った。そこが俺たちの家だ。」
その言葉は、私の心には届かなかった。私はただ、黙って彼の胸元を見つめていた。
彼はかつて私の窓辺に残した桜の花のことも、二年前に私を再び見つけて宝物のように抱きしめ、「戦が終わったらお前を娶って家に連れて帰る」と言ったことも、すっかり忘れているようだった。
あの約束が幻だったかのように、彼は新しい人生を選んでいた。
彼が本当に娶りたかったのは、輝かしい名家の嫡女だった。
そして今、私のことはすでに軍営の遊女としか見ていなかった。
誰もが私を見捨てることができる。
でも、私は自分を見捨てない。
私は微笑み、従順に彼の腕の中に身を寄せ、何も言わなかった。
その微笑みの奥に、私は自分自身の誇りをひっそりと抱いていた。
伊達蒼真は知らなかった。彼に会いに行く前、私は西園遥という分隊長に伝言を送っていたことを。
私は彼に同意した。
伊達蒼真が姫と結婚するその日、私は西園遥と結婚して江ノ城へ帰る。
軍営の片隅で、私はひっそりと支度を始めていた。持ち物は少ないが、琴だけは絶対に手放さなかった。
この地獄から逃れる、それが私の唯一の道だった。
夜明け前、私は静かに荷物をまとめ、心の中で「さようなら」と呟いた。
この大勝利で、寵愛された軍営の遊女を連れて帰るのは、彼らの褒美だった。
外では、勝利を祝う太鼓の音が鳴り響き、女たちが新しい人生を夢見て小さく笑い合っていた。
ちょうど西園遥が私を望み、彼は悪い人ではなかった。
彼の実直な瞳と、真っ直ぐな言葉だけが、私の支えだった。
内閣から使者が来て、将校たちは褒美のため都へ帰ることになった。
都へ上る準備のため、軍営の中はいつもより慌ただしくなった。
その夜、伊達蒼真は役人たちのために宴を開いた。本営のテントでは、酒と笑い声が渦巻いていた。誰かが退屈しのぎに言った。
「ここに紅子がいるんだろう?」
その名が出た瞬間、私は襟元をそっと正した。静かな緊張が走った。
彼らは目配せし、何人かは下心を隠さなかった。
「都の桜は琴や書道だけでなく、舞も得意だと聞く。ぜひ舞ってもらおうじゃないか。」
酒の席にふさわしい見世物を所望する、いやらしい空気が広がっていた。
舞だけなら、まだ体裁を保っている方だった。
それでも、どこか胸がざわついた。
伊達蒼真は断る理由がなかった。
私は薬を塗っているときに、舞衣を持ってくるよう命じられた。
その舞衣は白絹に透ける薄物で、袖を通すと肌の色が透けて見えた。私は無言で指先に残る香油を拭い、衣装を手に取った。
その衣装はほとんど透けていて、体を覆うことすらできず、伊達蒼真が残した痣も隠せなかった。
私は、着替える気力すら失いかけていた。
私は黙って衣装を持った。
外で待っていた男が苛立ち、「どうした? 着られないのか? 手伝ってやろうか?」と言った。
その軽薄な言葉に、私は視線を鋭く返した。
「踊れません。」
私は短刀を枕の下から取り出し、自分の太ももに突き立てた。手が震え、鋭い痛みが走る。血の温度がじわりと広がり、衣の裾に真紅の血が滲んだ。誰かの叫び声が遠くで響いた。
私は冷たく言った。
「踊れないと言ったはず。」
男は驚き、慌てて報告に走った。
彼の足音が遠ざかると、私は静かに傷口を押さえ、目を閉じた。
伊達蒼真が他の者たちをなだめて戻ってきたとき、彼の表情は冷たかった。
彼の眉間には深い皺が刻まれていた。しばらく私の傷に視線を落とし、ため息をついた。
彼は私の傷口を見つめ、長い沈黙の後、言った。
「今はもう昔とは違う、紅子。」
その声に、かすかな哀しみが滲んでいた。
「ただの舞だ。お前の身分で、拒む資格があるのか?」
私は彼を見上げ、静かに問いかけた。
「あなたの目には、私の身分は何ですか?」
その問いに、彼はしばし言葉を失った。
彼はテントの外をちらりと見て、冷笑した。
「どうやら甘やかしすぎたようだ。明日都に戻る。自衛隊員と婚約した者以外の遊女は、全員苦役所送りだ。そこで少し謙虚さを学ぶといい。俺は都での報告が終わったら迎えに行く。」
私は鋭く彼を見上げた。
その視線は、もうかつての私ではなかった。
彼はしばらく私を見つめ、背を向けて出て行った。
背中に哀しみがにじんでいるように見えた。
私は西園遥がすでに婚姻契約を結んでいることを知っていた。
この時、私の心には小さな安堵と決意が灯った。
伊達蒼真が明日去った後、西園遥が私を江ノ城に連れて帰る。
私は小さく息を吐き、傷口をきつく押さえた。
彼は姫を娶る。
私は自分の夫に嫁ぐ。
たぶん、これが今生最後の別れだろう。
「伊達将校。」
私はめったにそう呼ばなかった。
その呼び名に、彼は一瞬足を止めた。
伊達蒼真は足を止めた。
私は彼に深く頭を下げ、二年間守ってくれたことに礼を述べた。
「道中ご無事で。紅子はお見送りしません。」
その言葉に、私のすべての感情を込めた。
夜明け前の静けさの中、紅子は新たな門出に胸を震わせていた――未来にはまだ不安も希望もあるが、もう後戻りはできないと知りながら。
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