第4話:春の夜、皇后の灯
弾幕は静かになり、しばらく現れなかった。しかしこの出来事の後、最愛の妃は私を避け、長く訪ねてこなかった。彼女がそばにいた時は優しい慰めでよく眠れたのに、最近は悪夢ばかり見る。
ある夜、眠れず羽織をまとって廊下を歩くと、いつの間にか長春殿に着いていた。夜番の侍従に静かにするよう命じ、私が最も嫌っていたこの宮殿にそっと入る。
廊下の端に小さな行灯が淡く揺れ、床板のきしむ音と、障子越しに遠くから鈴虫の声、春の夜風が庭の梅を揺らしている。静かな夜の空気に、私はふと昔を思い出す。皇后との婚姻は先帝の命。私は彼女を愛していなかった。園子と結ばれる夢を妨げられたと感じていた。だが、民間にいた頃、彼女は私を細やかに世話し、桜橋で一生を共にすると約束した夜のことを思い出す。あの時、桜の花びらが夜風に舞い、彼女の髪もほのかに揺れていた。心に和歌の一節がふと浮かぶ——「いにしへの契り忘れず 春の夜」
私は長春殿の内殿へ向かう足を止め、清涼殿へ戻ろうとした。その時、庭先で犬の鳴き声がした。足の短い白い犬が私の元へ駆け寄り、何度も回ってから、愛おしそうに足元にすり寄る。抱き上げようとしたその時、女性の声が響いた。
「陛下、こんな夜更けに……何のご用でしょうか?」
その声は優しく、けれどどこか冷たさと懐かしさが混じっていた。白衣の女性を見上げ、不機嫌そうに言った。「用がなくては来てはいけないのか?天下はすべて朕のもの、この宮殿も同じだ」
薫皇后は眉をひそめ、唇を引き結ぶ。「そういう意味ではありません。ただ、陛下が長春殿に足を運ばれるのは久しぶりなので、少し不安で……」
その落ち着いた顔に、ふと恥じらいが浮かぶ。彼女は身をかがめて、小白を抱き上げた。「小白が無礼をいたしました。どうかお許しください」
その時、再び弾幕が——
【クズ竜、なんで夜中に長春殿来たん?急に皇后の良さに気づいたとかw】
【ずっと思ってたけど、皇后の方が園子妃より美人だし品あるのに、なんで園子みたいな小物好きなのw】
その言葉に、私はふと数歩近づいた。お互いの呼吸が感じられるほどの距離。障子越しの月明かりが薫皇后の足首を白く照らし、畳にその影が伸びる。春の夜風がそっと吹き抜け、庭の灯籠の灯が淡く揺れていた。
「なぜ裸足で出てきたのだ?」と問いかける前に、弾幕が先に返事をする——
【あんたが来たって知って、靴も履かずに慌てて出てきたんでしょw】
【結婚してからこの宮殿何回来た?】
【皇后は何年も空の寝台守ってるの偉い。私なら男囲ってるわw】
少し気まずくなりつつも、弾幕に背中を押されるような虚栄心も湧く。私は彼女を抱き上げ、犬ごと寝殿へと運んだ。薫皇后の頬がうっすら紅潮し、静かに小白を胸に抱きしめる。彼女の長い髪が私の肩にそっとかかり、寝殿の香がふわりと広がる。
春の夜、鈴虫の声と灯籠の淡い光が、二人の影を畳に映していた。
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