第2話:愛と疑念の御書院
私は御書院へ戻り、畳の香と香炉の煙がゆらめく静寂の中、誰も面会させぬよう命じた。顔色も暗く、心は不安でいっぱいだった。皇后を廃するのはずっと前から計画していたが、薫家の財産没収や朝廷の力関係など、誰にも話していない策まで弾幕が知っているのはなぜかと、薄暗い書院の隅で思い悩む。
静まり返った部屋に、水時計の滴る音だけが響く。簾越しの春の日差しも今日は妙に冷たく感じられた。最愛の妃のお腹の子が私の子ではないという弾幕の言葉に、信じるべきか疑うべきか、心が揺れた。まさか皇后が誰かに頼んで、こんな手を使わせたのかと疑念が渦巻く。
一人膝を抱え、遠くから鶯の声が微かに聞こえる。迷っていると、また弾幕が現れる——
【あれ?小説だと今日クズ竜が絶対皇后廃位するはずだったよね?なんで急に賢くなってんのw 皇后が殺しちゃいけない良い人って気づいた?】
【園子妃の性格なら、絶対すぐ御書院に突撃してくるでしょw】
弾幕を読み終えたところで、障子の向こうで畳のきしむ音がした。呼ぶ間もなく、扉が勢いよく押し開けられる。桃色の衣が舞い、怒りに満ちた園子妃が飛び込んできた。彼女は侍従長を指差し、涙交じりの声で訴える。
「陛下、この下賤な者が私をお止めになって、どうしてもお会いできませんでした。どうかお裁きを!」
園子妃の頬は興奮で赤らみ、悔し涙が滲んでいる。彼女の声は御書院の障子を震わせるように響いた。
私は福村を見ると、福村は唇を尖らせて言う。「お許しください、陛下。この老僕にはどうしても妃様を止められませんでした」
福村の額には冷や汗がにじみ、畳の上に足をすべらせている。長年仕えてきた矜持が揺らいでいるのがわかる。「ふん、陛下はいつでも私に会っていいと仰ったのに、あんたごときが止めるとかw」
確かに、以前そのように命じていたので、私は少しだけ眉を緩める。それを見ると、園子妃は急に気弱そうに私の膝に倒れ込み、首に腕を回してきた。彼女の髪がかすかに揺れ、着物の襟元から沈香の香りが立ち上る。
その柔らかな指が私の首筋をなぞり、心の奥にまで沁みわたる香に包まれる。だが、再び弾幕が現れる——
【色事の上には必ず刃w クズ竜結局女で身を滅ぼす運命なの草】
【改心したのかと思ったらやっぱり自業自得。国も美人も全部失うの当然w 主人公は仕事に集中してて偉い】
私は顔をこわばらせ、思わず腕の中の彼女を突き放した。園子妃は不意を突かれて畳の上に尻もちをつき、すすり泣く声が部屋に響く。
「陛下はもう私をお愛しでないのですね。今日、私を皇后にしてくださると仰ったのに、一日中詔を待っても来ませんでした。やっとお会いしに来たのに、また締め出されて……本当に皇后にしたくないなら、最初から甘い言葉で騙さないでください。他の妃たちにも笑われて……」
声は細く震え、涙をこらえきれず袖でぬぐい、下唇を噛む。畳に雫がぽつりと落ちる音が静かに響いた。園子妃は朱塗りの柱を指差し、涙で潤んだ瞳で訴える。「いっそここで頭を打って死んだ方がましです」
彼女が袖で涙を拭いながら柱の前に膝をつくと、周囲の女官たちが息を呑み、畳のきしむ音が静かに響き渡った。私の胸の奥に、ざわめきが広がる。