第5話:新たな興味と美少年ナオ
その後、ケントはさらにしつこく追いかけてきた——ブランド物やお金を持ってきたり、くだらない話題を振ってきたり。
下駄箱に手紙を入れたり、コンビニでプリンを買ってきたり、日本の高校生らしいアピールが続いた。
もし彼が私の母を口説いていたら、うまくいったかもしれない。
私の母なら、ケントのようなプレイボーイを転がすのは朝飯前だっただろう。
残念ながら、母はそういう手口には慣れていたし、私はとっくに飽きていた。
私は興味なさそうにケントを見て、あしらった。「成績が悪すぎる」
教室の窓から入る風が、二人の距離を冷たくした。
ケントは不満そうに言った。「ミユキ、みんなが君みたいに簡単に勉強できるわけじゃないよ」
「でも、君には絵の才能がある」
彼は表情を変え、だらけた様子が消えて背筋を伸ばした。「本当にそう思う?先生は落書きだって言うけど」
彼の声には珍しく緊張が混じっていた。クラスメートとしてでなく、ひとりの少年として私に認めてほしい気持ちが伝わってきた。
「うん」
「怠けてるだけじゃない?」と彼は詰め寄る。
その言葉に、私はふと自分の筆箱を指でなぞった。
そして家族が絵を描くことを許さず、海外に行かせたがっていると少年っぽい愚痴をこぼし始めた。「家が海外志向でさ、昔から自由とか許してくれないんだよね」
私は話を切った。「もう帰るね」
リュックを肩に掛け直して、私は教室を後にした。
本物のプレイボーイなら、まだ落ちていない女の前で弱みを見せたりしない。そんなことをすれば、相手に付け込まれるだけだ。
日本の男子のプライドは、案外繊細だ。
「ミユキ、俺が絵を教えてあげようか?」
その提案に、私は少しだけ興味を持った。
ケントの一番の魅力はその瞳——深く、情熱的で、まるで桜の花のようだった。
春の光に照らされるその瞳は、どこか儚げで、強い意志を秘めていた。
私は美しいものが好きだった。彼を見つめて微笑んだ。「君の目がきれい。君の目を描く方法を教えて」
彼は耳まで赤くなり、筆を持つ手が震えた。
夕日が差し込む窓辺で、二人だけの小さなアトリエが生まれた。
どんなに遊び人でも、まだ十八歳——時折、本当に純粋な一面を見せる。
その一瞬が、私は少しだけ可愛いと思った。
私は彼の耳を見て、そっと笑った。
この男がかつて「地面を這わせて靴を舐めさせてやる」と言った人間?
思い出すと、滑稽にさえ感じた。
大したことない——
「案外、普通の男の子だな」そう思いながら、私は彼の頬の赤みをじっと見た。
私は彼の絵と自分の下手な絵を見比べて、ため息をついた。「やっぱり私は絵の才能がないみたい」
ケントは笑った。「ミユキ、本当に可愛いな」
彼の照れ隠しの笑顔は、どこか幼い。
私は筆を置いた。「絵が汚れてる。私は汚いものが嫌い。男も同じ」
言葉のトーンに棘を混ぜた。教室の空気が少し緊張した。
ケントの顔色が変わり、私の目を見つめた。
彼の瞳には、一瞬だけ動揺が走った。
私は彼が新しく描いた絵に目をやった。
紙の端には、私の名前が小さく書かれていた。
その絵の目は私のものだった。
ガラスのような冷たさを持つ瞳が、紙の上に再現されていた。
その瞳は冷静で、愛も感情も一切なかった。
彼は無理に笑い、早足で去っていった。
教室の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
私は悪意のある視線を感じた。
アヤカが床に落ちた筆をじっと見つめていた。
彼女の目は、怒りと羨望に満ちていた。
ケントは自分の筆を大事にしていたが、今日は一本置き忘れていった。
筆先には、まだ私の描いた跡が残っていた。
私はそれを拾ってゴミ箱に捨てた。
机の下に転がる音が、妙に心地よかった。
次は誰が現れるだろう。
春の予感が胸をくすぐった。
もっと面白い人だといい。
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