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禁断の夜、25という女 / 第4話:命をかけた知恵比べ
禁断の夜、25という女

禁断の夜、25という女

著者: 加藤 海斗


第4話:命をかけた知恵比べ

4

部屋の連中が一斉に動いた。僕と田島さんは逃げようとしたが、床に押さえつけられた。ユウジはハサミを拾い、僕の指を一本一本叩いて、「切れと言ったら切れ。どの指にする?」

床の冷たさと、男たちの体重が全身にのしかかった。

僕は腕をねじられ、顔を床に押し付けられて動けなかった。田島さんも押さえつけられ、「兄貴、勘弁してください、彼はまだ若いんです。指なんか切られたら人生終わりですよ、大学出てるんです!」と叫んだ。

田島さんの声が、涙声になっていた。

「大卒?ははは…」ユウジは大げさに笑った。「怖いなあ、大卒は一番怖い…もういい、どの指にするか決めたか?決めないなら俺が決めてやる。箸が使えるように小指にしてやる。俺は優しいだろ?」

その言い方が、逆に不気味だった。

ユウジは僕の小指をまっすぐにして、冷たいハサミを当てた。切られる前から刺すような痛みを感じ、僕はとっさに叫んだ。「兄貴、そのタトゥー間違ってます!」

自分でも何を言っているのかわからなかった。

ユウジは動きを止めた。「何?」

部屋の空気が、急に静まり返った。

僕は唾を飲み込んで言った。「その腕のタトゥー、運慶の『地獄草紙』の不動明王です。悪人を縛って舌を抜く地獄に送る不動明王だから、本当は剣じゃなくて縄を持ってるはずです。」

自分の声が、どこか他人事のように聞こえた。

ユウジは自分のタトゥーを見て、「間違ってるってのか?」

彼の声には、威圧と戸惑いが混じっていた。

「はい、間違いです。調べればわかります。」

「カズ、ネットで調べろ。運慶の…なんだ?」

「地獄草紙です。」

「そう、それだ。早く調べろ。もし嘘だったら小指も切るからな。」

冷や汗が額を伝った。

カズがしばらくパソコンで調べて、「兄貴、見つけた!ほら、そっくり…あ、本当に縄持ってる。」

田島さんと僕は解放され、顔を見合わせてほっとした。

僕の全身の力が抜けて、その場に座り込んでしまいそうだった。

ユウジは画面と自分の腕を見比べて、しばらく考え込んだあと、突然テーブルを叩いて「ちくしょう、安物の彫り師め。縄より剣のほうが簡単だからこうなったんだ。恥かくじゃねぇか。」

その怒鳴り声に、部屋の空気が緩んだ。

「兄貴、黙ってれば誰も気づきませんよ。」と僕は言った。

僕は勇気を振り絞って、ユーモアを装った。

「どうしてわかる?」

「僕、美術専攻でした。大学で油絵やってました。」

言いながら、また手が震えていた。

「本当に大卒か。」

田島さんは「そうなんです、兄貴。うちの会社のエースですよ。」と笑った。

田島さんの声に、僕も救われる思いがした。

「学者に出会っちまったな。今日は見逃してやるよ。俺もこのタトゥー直さなきゃな。カズ、奥の部屋に財布があったらペンダントが入ってるか見てこい。」

この章はここまで

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