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犬泥棒と裏切りの夜 / 第2話:炎上する恋と犬
犬泥棒と裏切りの夜

犬泥棒と裏切りの夜

著者: 相田 志穂


第2話:炎上する恋と犬

2

翌朝早く、目を開ける前からマネージャーに叩き起こされ、また別のバラエティ番組の収録に連れて行かれた。

枕元の目覚ましを止める暇もなく、スーツケースを片手に玄関まで引っ張り出される。朝の新宿駅は相変わらず人混みで、コンビニのコーヒーの香り、駅構内のアナウンス音が響き、改札を抜けるサラリーマンの群れがせわしなく動いている。日本の朝の空気がどこか現実感を引き戻す。

昨夜、紗良が電話を切った直後、今度は彼女から図々しくかけ直してきた。

理由?コマツがパパに会いたがっているからだと。

そのメッセージには、コマツが窓辺で寂しそうに外を見ている写真が添えられていた。

私は椅子にぐったりもたれかかりながら、習慣でトレンドワードをチェックした。

スマホを開いた瞬間、画面には紗良の名前が踊っていた。まさかトップ3が全部紗良関連とは思わなかった。

#小お嬢様 桐谷隼人 深夜の匂わせ#

#小お嬢様 深夜の犬泥棒#

#桐谷隼人が認めた恋人関係#

#小お嬢様 桐谷隼人 近々おめでたいニュース?#

#橘悠真 元カレをいじめて後悔#

最後のトピックを見て、思わず吹き出した。

「は?元カレ?じゃあ俺は前世の彼氏か?」と自分にツッコミを入れてしまう。

桐谷隼人がデビューして以来、彼がトレンド入りするたびに、必ず俺が比較され、仕事を奪っただの悪評を立てられる。

コメント欄には「悠真はいつも損な役回りだね」とか「隼人がいなかったら今ごろ大ブレイクしてたのに」なんて声もちらほら混じっている。

私はコメント欄を辿って桐谷隼人のTwitterを開いた。

彼の最新投稿は昨夜の自撮りで、腹筋がしっかり写っている。

「うう、僕の犬がママに連れていかれちゃって、すごく寂しい。」

俳優としての自信が滲む写真だが、どこか演技じみた悲しそうな表情が逆に可笑しい。

紗良の投稿から30分後の投稿だ。

しかも彼女を@している。

その夜、トレンドは大炎上し、多くの有名アカウントがリツイートした。

深夜の芸能ニュースサイトまで「犬泥棒事件」としてまとめ記事を出していた。

ネット民の中には、全く関係ない二人の動画を編集して一緒にしたものまで現れた。

「やばい、推し二人が本当に付き合ってる!」

「三ヶ月前、週刊誌が北海道でスキーしてたって言ってたけど、小お嬢様は隼人と一緒じゃないって否定してたのに、今やブーメランだね、笑」

「隼人、やっぱりおめでたいニュースがあるから公開したの?」

「小お嬢様は隼人のために深夜に犬泥棒するくらいデレてる、草」

「小お嬢様は隼人を溺愛してて尊い。」

俺:「……」

SNSの熱狂ぶりに、思わずスマホを遠ざける。昨夜、紗良は隼人の犬まで盗んだのか?

でも彼はインタビューで「犬が怖いから絶対飼わない」って言ってなかったか?

この章はここまで

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