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牢獄で出会った運命の人 / 第4話:命を繋ぐ世話と絆
牢獄で出会った運命の人

牢獄で出会った運命の人

著者: 森下 慎


第4話:命を繋ぐ世話と絆

翌日の食事に、突然肉が出た。

——「えっ!」と思わず声が漏れる。牢屋の中で肉なんて、盆と正月が一緒に来たようなものだった。

看守が白飯、炒め野菜、焼き鳥、香り高いお茶を持ってきた。

——焼き鳥の匂いが、鼻をくすぐる。香ばしい醤油だれの香り……日本人なら誰でも一度は味わったことのある匂いだ。目の前に置かれると、思わず唾を飲み込んだ。

私は一瞬驚き、すぐに飛びついてがつがつ食べた。焼き鳥を口にくわえて、やっと理性が戻った。

——「しまった、これ、私の分じゃなかったかも……」と、手が止まる。だが、焼き鳥の旨味が口いっぱいに広がり、すぐには手放せなかった。

あれ、これって彼の食事じゃない?

外の看守は見慣れない顔で、私をじっと見つめ、涙をぼろぼろこぼした。

「旦那様、十五は役立たずで、食事も守れませんでした…」

——「十五?」と心の中で名前を繰り返す。きっと彼の家来だろう。涙ながらに話す姿に、どこかで見た武士の忠義を感じた。

彼はしゃくりあげて泣き、鼻水をすすりながら大声で泣いた。

——「なんて情けない……」と、ほんの少し苦笑い。だが、それだけご主人を思っているのだろう。

私はためらいながら焼き鳥を見たが、結局手放せず、今日は図々しくいくことにした。

——「すみません……」と小声で謝る。だが、腹が減っては戦はできぬ。日本人らしく、腹八分目を守れなかった。

だから焼き鳥をかじりながら謝った。「ごめん、お腹が空きすぎて…これ、旦那様のご主人?全然生きる気なさそうだから、励ましてあげた方がいいよ。」

——「ご主人」と口に出すと、どこか時代劇の登場人物のようで可笑しくなった。

十五は膝をついて泣き、牢の外で何度も頭を下げたが、ご主人からは一言も返ってこなかった。

——何度もお辞儀をする姿は、日本人の礼儀正しさそのものだった。こういう光景は、時代劇や歴史小説でしか見たことがなかった。

この男は昨日投げ込まれてから一度も動かず、まるで静かな死体のようだった。

影にいた本物の看守が急かした。「中村、もう行くぞ。俺まで巻き込むな、看守長が来るんだ。見つかったら首が飛ぶ。」

——「中村十五」……苗字と数字の名付け方は、昔の奉公人や下働きに多い。十五という名に、日本の庶民の暮らしが垣間見えた。

十五は何度も振り返りながら去り、突然私の前に戻ってきて、しっかり三度頭を下げた。

「お嬢様はお優しい方です。どうかご主人様の世話を、食事や水を与えてやってください、お願いします。」

「ご主人様は生きていなければなりません。」

——彼の必死の訴えに、胸が締め付けられる。日本語の「お願いします」には、ただの依頼以上の、切実な願いが込められている。

十五は涙をぬぐい、急いで看守と去った。

ああ、なんて大きな責任。

——「そんなこと、急に言われても……」と戸惑いながらも、日本人の「頼まれごとは断れない」性分がうずいた。

彼の素性が気になったが、聞けなかった。元当主、新当主——これは家督争いか、家の交代か?

聞いても答えてくれないだろう。

——「いつか本当の名前を聞いてみたい」心の中でそっとつぶやいた。

人に頼まれたからには、誠実にやらねば。私は満腹で幸せになり、新しい仕事ができて嬉しくなり、同房のお兄さんを起こして座らせてあげた。

——「日本人は、人の世話が好きなんだよね……」自分でも可笑しくなるくらい、使命感に燃えていた。

だが、手を添えると彼の体が震えていた。

「どうしたの?怖がらないで、私はいい人だよ。」

——手が触れた瞬間、彼の肌が冷たく震えていた。日本の冬の夜、寒さに震える子どもを思い出した。

彼はまだ震え、頬骨が強くこわばっていた。しばらくしてやっと息を吐いた。

やっと気づいた。「傷に触っちゃった?」

答えはなかったが、破れた服越しに背中を触ると、まだ新しい血が滲んでいた。暗くて傷の具合は見えない。

「ここじゃ感染防げないし、君の免疫力に頼るしかないね。」

——「でも、日本人なら我慢強いって言うし……」少しだけ冗談めかして言った。

私は膳を彼の前に置いた。

「さあ、食べよう。へへ、何から食べる?」

「ご飯はちょっと冷めてるけど、先に鶏肉食べる?でも重傷の時に脂っこいものは良くないよね。」

「誓って、残りの鶏肉を横取りするつもりはないから。」

「食事の前にまずスープを飲もう。お茶を飲ませてあげるね。」

私は少しお茶をすくい、ゆっくり彼の口元に持っていった。

彼は壁にもたれ、口を開けず、目を閉じ、顎を固く結んだままだった。

——「頑固だなあ……」と苦笑いした。日本の男は、こういう時に意地を張るものだ。

私はわざと泣き真似をした。「旦那様、今日死なないでください。私は四十九日間も一人で、気が狂いそうです——もう少しだけ付き合ってください。」

「あなたが来る前、もう限界でした。十本目の正の字を刻んだら、壁に頭をぶつけるつもりだった。」

「でもあなたが来てくれた——これが運命ってやつ?」

「仏教では『一人の命を救うは七層の塔を建てるに勝る』っていうけど、塔ってなんだろう?」

「本たくさん読んだけど、この単語知らないな。私って本当に浅い知識しかないなぁ。」

——「七重の塔か……法隆寺の五重塔みたいなやつ?」ぼんやりと想像する。日本人らしい、知ったかぶりの独り言。

彼の油断をついて、私は彼の頬をつまみ、水を無理やり口に流し込んだ。

「ごほごほごほ。」

——むせる彼を見て、少し申し訳なくなる。けれども、水を飲んでくれたことが嬉しかった。

彼はしばらくむせ、傷が痛んだのか再び震えた。

二口目を差し出すと、ようやく目を閉じて飲んでくれた。

私は笑った。「人生初めて人に食事を出すよ。下手だけど我慢してね。」

——「これが、おかゆをすくうおばあちゃんの気持ちかな……」と、少しほろ苦い気持ちになる。

ご飯を口元に持っていった。

彼はうなだれ、顔色が悪い。

同じように頬をつまみ、無理やりご飯を食べさせた。

「お兄さん、ちゃんと食べてね。看守が言ってたけど、今はまだ五月、秋の後に処刑されるんだって。歴史的には『秋の後』って秋分のこと——あと三ヶ月は生きられるよ。」

「ちゃんと食べて、何か変わるかもしれないから。」

私はおばあさんのように小言を言い続け、自分で笑ってしまった。

——「こんなに他人に小言を言ったことなかったな……」と、どこか懐かしい気持ちになった。

本当に病気かも——生きてる人を見て、こんなに嬉しいなんて。

でも、彼が一口ずつ食べるのを見るのは、藁を編むよりずっと楽しかった。

——「生きているって、こういうことか……」と、ぼんやり思った。

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