第2話:神社の警告
すべての始まりは、息子の結婚が決まり、妻と私が近所の神主さんのもとを訪れたことだった。
その神社は町の小高い丘の上にあり、初詣や七五三のたびに参拝客で賑わう場所だった。鳥居をくぐり、手水舎で冷たい水を手に受け、清める音が静かに響く。鈴の音が背後で涼やかに鳴り、社務所の畳に膝をつくと足裏に柔らかな感触が伝わった。
本来は結婚式の日取りを選んでもらうだけのつもりだったが、神主さんは占いを終えると険しい表情でこう尋ねた。
「最近、お宅の家に冷たい風が流れているのを感じます。お心当たりはありませんか?」
神主さんの白装束の袖がゆるやかに揺れ、老練な目が私たち夫婦をまっすぐ見据えていた。その問いかけに、社殿の空気が急に冷たくなったように感じた。
その言葉を聞いて、私は心臓がドキリとした。
胸がドンと大きく跳ね、思わず喉の奥が詰まった。呼吸をするのも苦しいほどの動揺を覚えた。
私は妻と目を合わせた。
彼女のやや動揺した表情から、同じことを考えているのがわかった。
妻は普段冷静な人だが、そのときはほんのわずかに唇を震わせていた。小さな声で「まさか」と呟いた気もした。
神主さんは続けた。「息子さんの結婚は家にとって大きな出来事です。家族全員が揃って儀式を行わなければなりません。誰かが欠けていると、たとえ式を挙げてもよくないことが起こるかもしれません。」
神主さんの声には、古くから伝わる家の因習や土地のしきたりがにじんでいた。儀式という言葉が重く響き、背筋を正さずにはいられなかった。
「どんなことが起こるんですか?」と妻が慌てて尋ねた。
妻の声はかすかに震えていた。彼女は手のひらを握りしめ、膝の上で爪を立てていた。
「それは聞かない方がいいです。とにかく、とても良くないことです。」
神主さんは穏やかな口調ながら、目の奥に強い意志を秘めていた。空気がひりつくような沈黙が流れた。
「娘さんもいらっしゃいますか?」
私はうなずいた。「はい、でも……」
言葉の続きを飲み込み、喉がひりつくように乾いた。
「やはりそうです。娘さんは家に帰りたがっていますね。ふむ……なかなか強い子ですね。」
神主さんの言葉に私は困惑した。
眉間にしわを寄せ、どう答えてよいのか分からなかった。神主さんの言葉が胸に刺さったまま、しばらく黙り込んだ。
娘は二十年前に亡くなったはずだ。家に帰りたいとか、強い子だとか、どういう意味だろう?
その疑問が頭を離れず、胸の奥で重く沈んでいくのを感じた。
神主さんはさらに言った。「昔から、亡くなった方はきちんと弔い、生きている者は家に戻るものです。結婚式を無事に行うには、何も問題があってはなりません。まず家族全員が揃ってから、もう一度私のところに来て日取りを決めましょう。」
その言葉に、私たちは社務所の畳の上で膝をついたまま、長い沈黙を共有した。神主さんが仏前に手を合わせる姿が目に焼き付いた。
神主さんの強い勧めで、私たちは帰宅するしかなかった。
石段を下りると、夕暮れの空にカラスが一羽、声高に鳴いていた。道すがら、妻と私はほとんど言葉を交わさなかった。