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消された娘の声が響く夜 / 第1話:鍵をかけた午後
消された娘の声が響く夜

消された娘の声が響く夜

著者: 大野 涼


第1話:鍵をかけた午後

かくれんぼをしていたとき、私はわざと娘が隠れていたキャビネットに鍵をかけた。

その瞬間、私の手は震え、鍵を回す音がやけに大きく耳に響いた。娘の息遣いが扉越しにかすかに伝わる気がして、胸が締めつけられる。罪悪感の重さと、これから起こることへの恐怖が心を満たし、背筋が冷たくなった。

障子越しに午後の光がやわらかく畳に差し込み、廊下の木のきしむ音や、遠くでカラスが鳴く声が静けさを際立たせていた。家の静寂は不気味なほど深かった。

その後、私は妻と息子を連れてすぐに新しい家へ引っ越した。

引っ越しの当日、町内会の人たちが「急なことで…」と手土産を持って見送りに来た。誰一人として、娘がいなくなったことには触れなかった。すべてが、まるで最初から娘などいなかったかのように進んでいった。車に乗り込むとき、私は振り返って古い家の玄関をじっと見つめた。湿った空気の中、遠くでカラスの鳴き声が響いていた。

二十年後、私は古い家に戻り、娘の遺体を埋めるつもりだった。

手に数珠を強く握りしめ、私は夜の静寂に紛れて家の門をくぐった。誰にも気づかれぬよう、夜道を静かに歩いた。足元には雑草が伸び、家はかつての賑やかさをすっかり失っていた。

キャビネットに近づいたその時——

幼い女の子の声が聞こえた。

それは遠い記憶の中に沈むはずの、しかし今耳元で囁かれるような声だった。私は一瞬、足を止めて辺りを見回す。静寂の中、障子の隙間から忍び込む風がひやりと肌を撫でた。

「お父さん、やっと見つけてくれるの?」

娘の声は、あの日のまま、幼い響きを保っていた。その瞬間、心臓が早鐘を打ち、冷たい汗が額をつたった。

この章はここまで

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