第9話:仮面の素顔と孤独な悪役
東雲圭吾の視線の中、私は薬をそっと彼のそばに置いた。去ろうとしたその時、彼が突然私の手首をつかんだ。
その手は氷のように冷たく、骨まで凍えるほどだった。私は彼を見下ろした。距離は近く、目が合う。
「お前は誰だ?」ようやく彼がかすれた声で尋ねた。
薄暗い照明の中、私は彼の黒い瞳に一瞬だけ何かが閃くのを見た。それはすぐに隠された。
彼は素早く手を伸ばし、私のマスクを外した。
東雲圭吾の黒い瞳が私の顔の傷を見つめる。近すぎて、彼の視線が震えているのが分かった。
私の顔はきっと恐ろしいのだろう。
私は手を上げてマスクを戻そうとし、その時、彼の手がふいに力を失った。手のひらから銀のネックレスが滑り落ちた。そこには小さな時計のチャームがついており、中央には微笑む少女の淡い写真が見えた。
私は視線をそらし、薬を残してその場を離れた。
今回は、東雲圭吾は私を引き止めなかった。
去り際、私はドア越しに彼を振り返った。彼は冷たい黒の服をまといながら、ただ寂しさだけを漂わせていた。
非常階段の薄明かりの中、彼の孤独が空気に溶けていくように思えた。
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