第8話:非常階段の邂逅
書店で一ヶ月近く働き、傷もほぼ癒えたころ、偶然また東雲圭吾に出会った。
夜11時、書店の店主に頼まれて、向かいのビルに本の配達に行くことになった。
何度もセキュリティチェックを経て、初めてビルの中に入った。
本を渡し終え、帰ろうとしたが、オフィスは静かでほとんど人はいなかった。エレベーターを待つ間、廊下の奥からうめき声のようなものが聞こえた。
エレベーターはなかなか来ない。私は廊下の奥を見やった。
弾幕は「余計なことするな」「駐車場で悪役を待て」「絶対やばいって」などと騒いでいた。
だが、そのかすれた苦しそうな声が気になり、しばらく立ち尽くした後、結局廊下の奥へと足を運んだ。
無人のオフィスには、空調の音だけが響いていた。
誰も予想しなかったが、非常階段の下、白い蛍光灯の下でうずくまっていたのは東雲圭吾本人だった。
階段下の薄暗さ、蛍光灯のちらつき、消毒液の匂いが鼻をつく。私は見てはいけないものを見てしまった。
私は固まったが、彼の視線の下、なんとか声を絞り出した。「……お医者さんを呼びましょうか?」
東雲圭吾は冷たく黙ったまま。
私は手を上げ、顔の白いマスクを押さえた。火傷痕があるため、人前では常にマスクをしていたのだ。
彼の視線は重く、圧迫感があった。
私は後ずさろうとしたが、彼の額の血管が浮き出て唇が青ざめているのを見て、急に哀れみが湧いた。
だから一歩踏み出し、いつも持ち歩いている鎮痛剤を差し出した。怪我の治療ができないので、痛みがひどいときはこれを噛むのが習慣だった。
ようやく役に立った。
無言のまま、薬を置く指先が微かに震えていた。自分でもなぜこんなことをしているのか分からなかった。胸の奥がざわつく。
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