第6話:少年の忠告と焼け残る記憶
私は目を伏せ、彼らの嘲笑を無視し、ただ自分の血まみれの傷を見つめていた。
だが、皆の予想に反し、次に東雲圭吾と関わったのは、彼の息子の方からだった。
どうやって私を見つけたのか分からない。
ただ、ある朝、安アパートのドアを開けると、彼が一人でランドセルを背負い立っていた。
彼はまるで立派な武士のように、姿勢を正していた。朝の澄んだ空気に、制服の白いシャツがきりりと映えていた。
その顔は父親そっくりで、冷たく感情を読み取れない。
彼は少し首を傾け、じっと私の顔を見つめて言った。「あなたは誰?」
不思議だ。自分から来ておいて、最初の質問がそれなのか。
「私は白石紗耶です。」正直に答えた。
その瞬間、彼の眉が深くひそまった。
弾幕コメントは止まることなく、私が名乗ると同時に一斉に嘲笑が始まった。「システムももう投げやりだな」「名前そのままとかw」「はい詰み確定」
騒がしいコメントとは対照的に、目の前の少年は全く笑わない。
「僕の名前は白石廉(しらいし れん)だ。」
そう言うと、さらに真剣なまなざしで私の反応を待った。
白石紗耶、白石廉……
彼の名前は私と不気味なほど似ていた。
弾幕で知った通り、東雲圭吾の亡妻はきっと白石紗耶という名前だったのだろう。
だが、私の頭は真っ白で、白石廉の期待するような反応はできなかった。
彼の熱い視線は次第に冷めていく。
その時、エレベーターからスーツ姿の中年男性が慌てて駆け寄ってきた。白石廉より半頭ほど背が高いが、恭しく少年に頭を下げ、「坊ちゃん、車が下で待っています。授業に遅れます」と言った。
その中年男性は髪をきちんと撫で付け、無地のネクタイが品の良さを物語っていた。明らかに東雲家の信頼厚い執事のようだった。
白石廉は長いまつげを伏せ、失望の色を目に浮かべて背を向けた。
だが、去り際に少し立ち止まり、眉をひそめた。廊下のガラス窓を見やり、「傷の手当てをちゃんとしろ」と言った。言い終えると、一瞬だけ唇をきゅっと噛み、視線を斜め下にそらした。
私もガラスに目をやると、腕と右脚に巻かれた粗末な包帯が映っていた。
ここに来てから、システムは何の特典もくれず、わずかな所持金で食費と家賃を賄うのが精一杯。病院に行く余裕などなかった。
白石廉はすでに去っていた。
私はガラスに映るぼやけた自分を見つめた。
傷の痛みよりも、少年の視線の冷たさの方が、心に深く突き刺さった。
顔の右側にはまだらな火傷痕があった。
システムによれば、私は十年前、火事で死んだらしい。
システムのエネルギーは世界そのものから得ている。しかし、復讐に燃える東雲圭吾は、妻の死に関わった者すべてに報復した。罪の有無を問わず——
「選ばれし者」である男女主人公すら五年前に死亡し、その後、世界は東雲圭吾の手に落ちた。システムもかろうじて持ちこたえているだけで、エネルギーは常に枯渇寸前。
だから私の体も八割しか修復できず、健康ではあるが、火傷の痕がまだ残っている。
鏡の中の見知らぬ顔——平凡で、むしろ醜い顔。私はそっと指で火傷の痕に触れ、吐く息で鏡が曇る。その曇りの向こうに映る自分は、どこまでも他人のようだった。孤独と自己嫌悪が胸の奥を支配する。
私を選んで悪役を救わせるなんて……
弾幕が嘲笑に満ちているのも無理はない。
洗面台の蛇口から流れる水の音だけが、現実感をつなぎとめてくれた。
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