第2話：悪役との最初の邂逅

システムが私をこの世界に送り込んだとき、世界線の安定を脅かす悪役はすでに三十四歳、十歳ほどの息子もいた。

目覚めた私は、何も分からなかった。記憶は真っ白。

分かっているのは、私の名前が白石紗耶（しらいし さや）で、二十三歳ということだけ。

それもシステムが教えてくれた。

さらに、システムは何度も何度も悪役がどれほど危険か警告し、前任の戦略家たちのようにこの世界に来た途端死ぬなと念を押した。

悪役の名は東雲圭吾（しののめ けいご）。財力と権力の頂点に立つ男だとシステムは言った。

彼は冷酷で残忍、理性でかろうじて抑えられた獣。唯一人間らしさを残しているのは、幼い息子に対してだけかもしれない。

私は長い間鏡の前で自分を見つめ、「私のどこに、悪役が特別な目を向ける理由があるの？」と小さくつぶやいた。

鏡の奥には、ぼんやりとした自分の姿。その顔に宿る不安と虚しさが、知らず知らず心を沈ませる。

システムはしばらく黙り込んだ後、妙に重い口調で言った。「君が最後の希望だ。もし君まで失敗したら…いや、きっと君なら大丈夫だと信じている。」

障子越しに冬の冷たい風がわずかに吹き込んだ。