第11話:契約と噂の中の孤独
書店は向かいの会社と長期契約を結び、私はよく使い走りを買って出た。時々、遠くから東雲圭吾の姿を見かけることがあった。
彼はいつも黒い服で、他の色は一切身につけない。唯一の例外は、白いシャツの襟元だけ。
歩くのも早く、常に部下たちに囲まれ、皆うつむいていた。
外から見れば、彼は冷たく近寄りがたい存在で、あの夜見た弱々しい姿とはまるで別人だった。
たまにオフィスを通り過ぎると、休憩室で社員たちが噂話をしているのが耳に入った。
恐ろしい上司のオフィスには花一輪もなく、すべてがグレーと黒で統一され、重苦しい雰囲気だと言う。
東雲圭吾の早世した妻は周知の事実らしい。息子がよく会社に来ることや、彼が指輪を外さないことも理由の一つだろう。
社員たちは「東雲圭吾は亡妻のために禁欲生活を送っている」とまで噂していた。
私は本の山を抱え、頭を下げ、人混みを静かにすり抜けた。
この任務を引き受けたのは間違いだったのでは、と初めて考えた。
廊下の窓越しに、冬の空が曇天に沈んでいた。
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