第12話:冷たい廊下と晒された素顔
この世界に来て二ヶ月以上が経ち、見聞きした限り、東雲圭吾は本当に亡妻を愛していた。
だからこそ、前任の戦略家たちは皆失敗したのだ。
私の進展も散々なものだった。
弾幕も呆れたのか、今ではほとんど私を罵ることすらしない。
私の存在は、東雲圭吾と亡妻の愛を汚しているように感じられた。
私は過去もなく、未来もなさそうだった。
この絶望的な任務を続けるべきだろうか。
考え込んでいるうちに、本の山を抱えたまま、白いスーツにコーヒーを持った美しい女性にぶつかってしまった。
コーヒーは本の上にも、彼女の白い襟元にもこぼれてしまった。
私は頭を下げて必死に本を拭き、謝罪した。
女性は鋭い声で私の腕をつかみ、「誰があなたをここに入れたの?」と詰問した。
私は下の書店から来たと説明した。
彼女は鼻で笑い、「こんなみすぼらしい書店と取引してる社員なんて聞いたことない」と言い放った。
近くの社員が目をそらし、廊下には緊張した空気が張り詰めていた。
人がどんどんこちらを見てくる。
私は頭を下げ、何度も謝った。「服は……私が洗うか、新しいものを買ってきます。」
「あなたに買えるの?」彼女は私を上から下まで見下し、侮蔑の眼差しを向けた。
鋭い爪で私の髪を引っ張り、マスクを剥ぎ取った。
私の顔が露わになると、後ろから誰かが息を呑むのが聞こえた。周囲の社員たちは一斉に視線をそらし、空調の音だけが不自然に大きく響いた。その場の空気が凍りついたようだった。
「あなた……」女性は呆然とした。
私は一瞬目を閉じ、すぐにマスクを戻し、恥ずかしさを隠した。
「すみません。どうされても構いません」と頭を下げた。
その場が静まり返る。
突然、エレベーターの「チン」という音が鳴った。
扉が開き、誰かが降りてきた。
背の高い影が私の足元に落ちた。
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