第6話:欠陥を暴く者
物語はそこで終わっていた。明らかに瑞希はまだ書き終えていない。謎は山積みだ——洞窟の顔は類人だったのか?もしそうなら、それは来訪者なのか族長なのか、あるいは両者は同一なのか?
部屋の空気が薄くなったように感じ、私はじっと画面を見つめたまま考え込む。
何よりも重要なのは、類人の「欠陥」とは一体何なのか?
納得できず、私は自分で分析してみることにした。
書斎に行き、「不気味の谷」についての本を取り出し、ページをめくりながら考え込む。
背表紙には「現代恐怖論」と金の箔押し。図書館で借りてきたまま、まだ返していない。
不気味の谷の動画は何度か見たことがある——大抵はロボットや人形、人為的に不気味に作られた人の映像だ。そういう欠陥は一目で分かる。
YouTubeで見た無表情なロボットの映像や、デパートのショーウィンドウに並ぶマネキンの微妙な違和感。そのときの感覚を思い出す。
でも瑞希の物語では、類人は人間とまったく変わらない。それが奇妙だ。
「あれだけ外見が同じなら、欠陥なんてないじゃないか?」と、頭を抱える。
「もし類人が人間とそっくりなら、それはもう人間じゃないのか?」
私は思わず独り言を言った。従姉の話はまるで謎かけで、誰が当てられるんだと。
だけど、それでも気になって仕方がない。この謎の核心を突き止めたい。瑞希に負けたくない——それも本音だ。
でも、それがかえって好奇心を掻き立てる。私は元々サスペンスやホラーが大好き——でなければ従姉が相談に来ることもなかっただろう。
本棚の奥には、日本の怪談や都市伝説の本も並んでいる。子供の頃から、こういう謎解きが好きだった。
「世界に同じ葉は二枚とない。」類人と人間にも、きっと違いがあるはず。
「千差万別」と呟きながら、机の上の紙片を指で弾く。
私は決意した。従姉が物語を書き終える前に、欠陥を突き止めてやる。そしてどちらの案が面白いか比べよう。
次に、私は本棚から友人にもらったマトリョーシカ人形を取り出した。
箱の中には、入れ子になった五体の人形。どれも笑顔だが、どこか気味が悪い。
マトリョーシカは大量生産なので、サイズ以外はほぼ同じだ。
一つ一つ手に取るたび、木の表面のざらりとした感触が伝わる。
私は似た大きさの人形を二つ取り出し、顔を並べて観察した。
光にかざして、まぶたや唇の描き方まで比べてみる。違いは…ほとんどない。
仮にこの二つの人形——片方が人間、もう片方が類人だとする。外見は同じ。なら、どこに欠陥が?
「これがもし人間そっくりだったら…」と考えながら、両方をじっと見つめる。
私は長い間じっと見つめたが、結局分からなかった。手に取ってひっくり返しても、サイズ以外に違いはない。
「どちらも微笑んでいる。…なのに、なぜかぞわっとする。」
人形の描かれた微笑みが、私を嘲笑っているようだった。
「まるで見抜けるはずがないと言われているようだ。」
私は苛立って人形を放り投げた。
木の床にカツンと音が響く。ふいに、窓の外で風鈴が小さく鳴った。
「百万年前の猿人ですら欠陥を見抜けたのに、そんなに難しいはずがない。自分が分からないなんて信じたくない。」
頬杖をついて、うんうん唸る。「負けてたまるか…」
待てよ。
突然気づいた——賢い猿人は二度も欠陥を見抜いている。つまり、肉眼で分かる何かのはずだ。
「じゃなきゃ、夢でも現実でも、気づけるわけがない。」
私はスマホを取り出し、瑞希の物語を読み返した。どこかにヒントがあるはずだ。
画面をスクロールしながら、手が震える。心臓が早鐘のように打つ。
すぐに一つ見つけた——猿人が初めて類人の正体に気づいたのは夢の中。
夢の中?それはおかしい。夢の顔はぼやけているものだ。仮に鮮明でも、現実ほど明確ではない。
「夢で何かを見抜くなんて…」と疑いながらも、もう一度読み直す。
しかも、猿人と類人は初対面。相手の顔の記憶もないはず。
「ここが怪しい。」私は興奮して呟いた。
この展開は、猿人が観察でなく直感や推論で欠陥に気づいたことを意味する。
あるいは、夢の中でだけ本当の姿が見えるのかもしれない。
また、族長に会ったときもすぐに欠陥を見抜き、恐怖で絶命している。
「最初から間違っていたのかも。欠陥は外見にはない。」
私は納得してうなずいた。外見はミスリード。類人の秘密は別のところにある。
「やっぱり“匂い”とか、“気配”なのか…?」
私は物語を再度じっくり読み、いくつかのポイントを抽出した。
引き出しから紙とペンを取り出し、推理した手がかりを書き出す——
一つ目:類人と人間は外見に違いがない。少なくとも外からは欠陥が見えない。
二つ目:類人は「神ですらその存在を知らぬ」と言った。つまり、考えられるのは二つ——想像もつかないほど遠い場所(宇宙の外)から来たか、あるいは地球上の生命すべてから隠れてきた土着の存在か。
三つ目:山猫が洞窟で人間の匂いを感じなかった。つまり、類人には人間の体臭がないのかもしれない。もちろん、これは今のところ仮説に過ぎない。
「他にも…」と、メモ帳に箇条書きを続ける。だんだん推理が楽しくなってきた。