第5話:夢と現実の狭間で類人を追う
三日が過ぎても、その記憶が消えない。毎晩眠るのを拒み、猿人と類人の夢を見るのが怖くてたまらなかった。
布団に入るたび、あの従姉の無表情な顔が脳裏をよぎる。部屋の隅が妙に暗く見えて、つい枕元の電気をつけたまま寝てしまう。
スマホを見ると、従姉の瑞希が執筆ブログを更新していた。あの類人の物語が投稿されている。
タイトルには「類人の欠陥、判明?」という文字。私は思わず姿勢を正して、指先が震えるままページを開いた。
「ついに類人の欠陥を書いたのかな?」私は興奮してクリックした。どうしてもその秘密が知りたかったのだ。
スマホのブルーライトが顔を照らし、隣の部屋からはテレビの音がかすかに漏れてくる。夜の家庭の静けさが逆に緊張感を強める。
画面の明かりが部屋の壁にぼんやり映り、私は息を詰めて読み始めた。
そこに書かれていたのは——
他の部族が賢い猿人を発見したとき、彼はすでに正気を失っていた。泥だらけで傷だらけ、ひどい目に遭った様子だ。
草の匂いと血の跡。仲間たちは遠巻きに彼を見つめ、何があったのかと小声で囁き合う。
当時、猿人には狂気という概念がない。彼の姿を見て、悪霊に取り憑かれたと思い、彼を縛り上げて皆で囲み、祈りを捧げた。
焚き火の前、木の縄で両手両足を縛り、誰かが持ってきた薬草を頭に振りかける。「悪霊よ、去れ…」
「もう来ている。奴は我々の中にいる!」
賢い猿人は叫び続け、同じ言葉を何度も繰り返した。
その叫びは皆の恐怖を煽り、誰も近寄ろうとしない。
獣のような唸り声。子供たちは泣き、女性たちは背を向ける。男たちすら目を合わせようとしない。
「奴の秘密を教えてやる。」
その言葉を聞き、族長が立ち上がり、ゆっくりと彼のもとへ歩み寄る。
族長は毛皮のマントを翻し、焚き火の光に浮かぶ。足音が土を踏みしめる音だけが静かに響く。
「誰だ?どんな秘密を知っている?」
賢い猿人はもがきながら叫ぶ。
「部族に誰かが来た。いや、誰かじゃない。見た目は我々と同じだが…」
言い終わる前に、族長が急に顔を近づけてきた。
火の影が二人の顔を揺らす。その瞬間、空気が凍りついた。
「よく見ろ。思い出せ——どう説明する?」
「お前…」賢い猿人は族長の瞳を見つめて震え、心臓が止まりそうになった。
族長の瞳の奥、何かが見えた気がした。その正体を口にする前に、賢い猿人の意識は闇に呑まれる。
当時は死が珍しいことではなかった。何が起きたのか誰も分からず、猿人の遺体は森へと投げ捨てられた。
死の扱いも、今とは違う。村人たちは静かに木々の間へ運び、土の下に埋めることもなく、森の生き物たちに委ねる。
もしかしたら、族長に何か問題があったのかもしれない——彼こそが類人だったのかもしれない。しかし賢い猿人の死とともに、真相は永遠に闇に消えた。
遠くの森の奥で、フクロウが鳴いた。風が木の葉を揺らし、夜の静寂が戻る。
百万年前、大地には動物があふれていた。ある日、獣——山猫が一つの洞窟に迷い込む。
乾いた土と獣の匂い、苔むした石。洞窟の入り口には古い足跡が残る。遠くでホトトギスが鳴く。
そう、かつて類人が滞在したあの洞窟だ。
山猫は興味深げに洞窟内をうろついた。
鼻をひくひくさせ、壁のシミや物陰を入念に探る。普段なら絶対に近づかない場所だ。
注目すべきは——
動物は人間のいた場所を避ける。人間の匂いを嗅ぎ分けるからだ。しかし、この山猫はそこに人間の気配を感じなかった。
獲物の残骸、骨、石器の山。だが、漂うのは「何か」が違う気配。
洞窟の壁には動物の死骸と石器が山積みになっている。
剥き出しの骨と乾いた血の跡。山猫は慎重に歩を進める。
山猫は何かがおかしいと感じた。ぼんやりとした頭で考える——
「ここには人間がいるはず。でも誰もいないし、匂いもしない。」
山猫は考えあぐね、獲物を横取りしようと決意した。ちょうど食べようとしたそのとき——
闇の中から突然、人間の顔がぬっと現れた。
「私を探しているのか?」
ゾクリ、とした声が洞窟の奥から響く。山猫は一歩も動けない。