第2話:洞窟の影と類人の違和感
百年前、人類は火を発見し、生肉を食べ血をすすっていた日々に終止符を打ちました。夕暮れ時、猿人たちが獲物を持ち帰り、苔むした石を敷いた洞窟で火を灯す。
火打石の火花が乾いた枝に落ち、湿った苔の匂いが立ち上る。獲物の毛皮を敷き、仲間たちは黙々と座る。焚き火のパチパチという音、外から吹き込む風にはどこか草いきれが混じり、洞窟の天井からは水滴がぽたりと落ちる。
そのとき、外からもう一つの影が現れた。顔は闇に覆われ、他の者たちにははっきり見えない。
焚き火の火がその影を照らすと、一瞬、目だけがギラリと光ったように見え、皆が息を呑む。
しかし洞窟の住人たちは知らなかった——この「人物」は本当の仲間ではなかったのです。
「寒い夜には誰もが集まるものだ」と老猿人が呟く。だがその言葉には、どこか落ち着かぬ気配が漂う。
賢い猿人が松明を手に取り、慎重に近づいて新参者を上から下まで観察した。見た目は同じ、仲間のように思えるのに、賢い猿人はどうしても違和感を拭えない。
松明の炎が新参者の顔を照らすと、鼻筋や頬骨まで自分たちと瓜二つ。だが、何か…何かが心に引っかかる。心のざわめきは消えない。指先がじっとり汗ばみ、背中の毛が逆立つような感覚。
彼はその見知らぬ者に小声で言った。「お前、見たことないな。」
その者は微笑んだ。「通りすがりだ。ここで寝かせてほしい。」
唇の端がわずかに吊り上がる。その笑みには温かさがない。けれども他の猿人たちは気にも留めず、毛皮を差し出す。
人間は社会的な生き物。だから洞窟の住人たちは彼の願いを受け入れた。
「一晩ぐらい、いいだろう」誰かがそう呟き、皆がうなずく。その様子を、賢い猿人だけが黙って観察していた。
夜が更け、皆が眠りについた。先ほど松明を持っていた猿人だけは寝つけず、何度も寝返りを打つ。一つの疑問が頭を離れない——
焚き火が徐々に小さくなる。耳には他の者たちの寝息と獣の遠吠え、時折吹き込む風の音、天井から水滴が落ちる音だけが響く。だが、心のざわめきは消えない。指先がじっとり汗ばみ、背中の毛が逆立つような感覚が残る。
新参者の何がいけないのか?
鼻が一つ、目が二つ、口が一つ、耳が二つ、腕が二本、足が二本……
まるで子供のように頭の中で数え上げる。違うところは…本当に何もないのか?
すべて普通に見える。余分な尻尾も翼もない。
「もしや、気のせいか?」と自分に問いかけるが、その度に不安が膨らむ。
賢い猿人は混乱した。ただ、何かがおかしいと感じるだけだった。
目を閉じて深呼吸しようとするが、胸の奥のざわめきはむしろ増していく。静けさの中で、その感覚が一層はっきりしてくる。
彼はこっそり新参者を盗み見た。相手はすやすやと眠っている。
時折、寝返りを打つ音。まぶたの動きさえ普通。だが、なぜか安心できない。
夜も更けて、賢い猿人もようやくうとうとと夢の中へ。夢の中で、再び新参者と出会った。
夢の世界は、ぼんやりと霞んだ闇。自分と新参者だけが、火のない洞窟の中に立っている。
今度は二人きり。彼は恐怖に駆られ、神様に守りを祈った。
「どうか守ってください…」と胸の奥で呟く。子供の頃に母親から教わったおまじないの言葉。
新参者は彼の心を読んだかのようにささやいた。「しっ…神ですら私の存在を知らぬ…」
その声は、耳元で氷のように冷たい。賢い猿人は凍りついたように動けなくなる。
二人はどんどん近づいていく。賢い猿人は震えながら相手の顔を見つめ、ついに何がおかしいのかを思い出した。
夢の中、相手の目の奥に深い闇がある。ああ、そうだ。これが「人間」と違うところ——
彼は飛び起き、夜の闇に向かって洞窟から逃げ出した。
息を切らして洞窟の外に飛び出し、膝をついて肩で大きく呼吸する。闇の中、背後に目をやることもできず、ただ必死に逃げる。
「怖すぎる…みんなにこの秘密を伝えなければ。」
声にならない叫びを心の中で繰り返しながら、夜の森をさまよう。木々のざわめきが、自分への警告のように聞こえる。
それ以来、人間はそのようなものへの恐怖を遺伝子に刻み込んでいった。そして現代社会に、「不気味の谷現象」という言葉が生まれたのです。
この恐怖は、見知らぬ隣人の中にも潜んでいるかもしれない——そんな予感と共に。