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宿敵から1億円、禁断の朝 / 第2話:女子の距離感と毒舌の夜明け
宿敵から1億円、禁断の朝

宿敵から1億円、禁断の朝

著者: 山口 隼人


第2話:女子の距離感と毒舌の夜明け

バラエティ番組のゲームは単純だった。芸能界の知り合いに電話をかけて、指定されたフレーズを言わせる。ただし、録音されていることは相手に知られてはいけない。

(日本のテレビならではの、どこか悪ノリの企画。皆、和やかに緊張しつつも、本気の空気がじわじわ伝わる。ADがカンペをちらりと見せ、スタッフ同士の無言のアイコンタクトもピリピリと漂う。)

フレーズはくじ引きで決まる。

(箱は紅白の縞模様。誰が手作りしたのか、角が少し潰れている。私は息を飲みながらその紙を引いた。)

私が紙を開いた瞬間、目の前が真っ暗になった——

【お題:病気なの?】

なんだこの変なお題は? まるで妙なリスニング問題みたい。

(まるで学園祭の即興劇みたいだ。笑いを堪えきれず肩を震わせる出演者もいた。)

「え、これ無理ですよ、ディレクター、真央ちゃんにもう一回引かせてください。」

江里奈(えりな)が急に身を寄せてきて、自然に私の腕に自分の腕を絡め、軽く揺すった。一瞬だけ、江里奈の指先が私の手首をかすめた。わざとらしいけど、絶妙に嫌味にならない。

この小娘、演技がうまいな。

(さすがはモデル上がり。距離の詰め方が絶妙だ。ほんのり香るシャンプーの匂い、照明に映える笑顔。これが世渡り上手というやつか、と妙に感心してしまう。)

知り合ってまだ30分も経ってないのに、もう親友気取りか。

(芸能界の女子特有の距離感。都合が良ければすぐに「親友」になる、でもその裏には別の計算も見え隠れする。ふと、昔の友人を思い出す。)

私は無理に笑顔を作って首を振った。

「大丈夫、このままでいきます。」

(自分でも強がっているのがわかる。心臓がばくばくと鳴っているのに、なぜか声だけは落ち着いているふりをした。)

【コメント:美月、草www】【コメント:江里奈は気遣ってるだけなのに】【コメント:女の争い感すごいw】【コメント:隼人とふざけてるのガチ恋乙】【コメント:えりな、もうやめとけ】【コメント:小道具扱いで草生える】

(スタジオのモニターにコメントが次々流れ、冷ややかな文字が胸に突き刺さる。顔では平静を装いながらも、心の奥でひりひりと痛みを感じていた。)

私は下を向いてコメントを無視し、誰に電話をかけるか考えた。

(スマホの画面を指でなぞりながら、誰ならこの無茶なお題に付き合ってくれるか、頭をフル回転させる。付き合いの深い人、ネタにしても許してくれそうな相手……でもそんな人、果たしているのだろうか。)

まともな人なら、こんなセリフ絶対言わない——でも……

(少し唇を噛む。今までの人生でどれだけ「変な人」に助けられてきたことか。非常識が非常時には救いになるのかもしれない、とふと考える。)

でもミッションをクリアできなければ、江里奈とチームを組む羽目になる……

(それだけは避けたい。撮影の合間、控室で気まずい空気が流れるのは目に見えている。あの独特の沈黙……)

私はため息をつき、画面を見やった。江里奈がいかにも親しげに振る舞っているのが映っている。

(作り笑顔が板についているなぁ、と冷静に観察する自分がいる。テレビの向こうで観ている人たちも、きっとその空気を感じているはずだ。)

「何言ってるの?真央ちゃんとはすごく仲良しだし、私、真央ちゃんのこと大好きだし、すごくよくしてもらってるよ。」

(江里奈の甘ったるい声が、マイクを通してスタジオに響く。お世辞が上手いのか、心からなのか、どちらなのか分からない。でも、その曖昧さがまた芸能界らしい。)

もういい、もういい。気まずい1分と、1日中の気まずさ、どっちがマシかって言ったら、1分のほうだ。

(腹をくくった。無理して笑って、悪い空気を作るより、一瞬の勇気で乗り切るほうが私らしい。)

この章はここまで

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