第5話:嘘と涙、崩れる家庭
呆然とするハヤシを残し、私は車で家に帰った。
エンジンの音とともに、故郷の川沿いの桜並木をぼんやり眺めながら、私は運転席に沈み込んだ。
ドアを開けると、アヤカがネグリジェ姿で歯を磨いていた。私を見るなり、歯ブラシを落とし、驚いた顔をした。
「あなた?…どうしてこんなに早く帰ってきたの?」
ネグリジェからは隠しきれないほど、体中に痕が残っていた。
私の視線に気づいた彼女は、慌てて服を引き寄せた。
「最近ヨガしてて、怪我しちゃったの。触ってみて?」
そう言いながら、私の手を自分の体に押し当てようとした。
私は吐き気を覚え、顔をしかめて彼女を突き放した。
「汚い」
声は思ったよりも冷たく、どこか別人のようだった。
彼女は固まった。大きな瞳がたちまち涙で潤み、慌てた声で言った。
「あなた、今何て言ったの?」
以前なら彼女を泣かせたことを後悔し、自分を何度も責めていただろう。
だが今は、ただただ嫌悪感しかなかった。
もう何も言いたくなくて、服を持ってバスルームに駆け込んだ。
「先にシャワー浴びる」
彼女はホッとした様子で、私が自分を汚いと言ったのではないと思い込んでいた。
以前の私は、彼女を傷つけることなど絶対にできなかった。
だが、彼女の触れる手が、今はただ不快だった。
彼女は私のやせ細った顔を見て心配そうに言った。
「あなた、すごく痩せちゃったね。アヤカ、すごく心配だよ。美味しいもの作ってあげる」
私は眉を上げて言った。
「へえ?今日はずっと一緒にいてくれるの?」
「もちろん…」
その瞬間、彼女の顔色がさっと青ざめ、目をそらした後、無理やり笑顔を作った。唇を噛み、指先をもじもじ動かしている。
「午後は女友達と約束があるけど、キャンセルできるか聞いてみる。私の中で一番大事なのはあなたよ」
私は無言で彼女を押し出した。
案の定、1分後、私のサブアカウントに新しいメッセージが届いた。
「お兄ちゃん、今日は体調悪いから、日を改めてもいい?」
彼女の仕草を見抜いた瞬間、心の中で「やっぱり嘘だ」と静かに呟いた。
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