第4話:本音の衝突と現実逃避
私が失望した理由は簡単だった。
会うたびに、一瞬だけ交わる熱。その後の冷たさ。落差が私の心に棘を残した。
毎回終わると、美緒はすぐに服を着て帰ってしまい、一秒たりとも長居しなかった。
「またね」と小さく微笑み、素早くバッグを手に取る。残されたベッドのシーツは冷たく、自分の存在が空気のように希薄になる瞬間だった。
彼女の背中を見送りながら、私はいつも思った。自分は恋人を見つけたのか、それともただ風俗に行っただけなのか?
出口を急ぐ彼女の後ろ姿が、どこか他人行儀に見えた。「自分は何をしているのか?」と部屋の時計を眺めながら、やりきれなさに包まれる。
私たちの間には、ただ汚れた職場の取引しかないのか?
「これは愛じゃない、取引だ」と自分に言い聞かせても、心が満たされることはなかった。
彼女の冷めた態度は、かえって私の征服欲を刺激した。
追いかければ追いかけるほど、手に入りそうで入らない。焦燥感がますます燃え上がった。
その時、初めて離婚の考えが頭をよぎった。
「いっそ、全部捨ててしまえば……」と、無謀な夢想が脳裏をよぎった。
一度、我慢できなくなり、彼女が服を着ているときに聞いた。「こんなに何度も関係を持って、少しも俺に気持ちは湧かないのか?」
ボタンを止める手が一瞬止まり、彼女は肩越しにこちらを見た。部屋の明かりが彼女の頬に影を落としていた。
彼女は少し間を置いて、苦笑した。『……川村課長、奥さん妊娠中ですよね。本気になったら、私…惨めになるだけですから』と、やや言い淀みながら静かに言った。
言葉は静かだったが、どこか痛々しい現実味があった。私は思わず返す言葉を失った。