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妻の出産日に愛人と堕ちて / 第2話:取引の快楽と虚しさ
妻の出産日に愛人と堕ちて

妻の出産日に愛人と堕ちて

著者: 吉田 真琴


第2話:取引の快楽と虚しさ

それから私は完全に自分を見失った。隙あらば、佐々木美緒と関係を持つようになった。

会社の会議室のカーテンの隙間から漏れる夕陽、ビルの裏手で交わす短い会話——日常の隙間に、背徳の刺激は増していった。

やがて、チャンスがなくても無理やり作ってまで彼女と会おうとした。

始発前のカフェ、昼休みの静かな非常階段、社内の人目を避けてメッセージをやり取りする。コンビニで買ったおにぎりを二人で半分に分け合い、自販機の缶コーヒーをそっと手渡す——そんな些細なやりとりが、オフィスラブのリアルな日常を彩っていた。

自分がこんなにも欲に駆られるとは思わなかった。それほどまでに美緒は魅力的だった。

彼女の横顔、細い手首、香水の淡い香り。会社の制服も彼女が着るとどこか違って見えた。

名前の通り、彼女は本当に素晴らしかったし、私がすでに汚れていることにも頓着しなかった。

彼女の『美緒』という名は、まさに彼女そのものだった。まっすぐな瞳と、何事も受け入れる包容力が、私の罪悪感さえも柔らかく溶かしていく。

咲(さき)が拒むことも、美緒はすべて受け入れてくれた。

「だめだよ」と言われることもなく、すべてを肯定する静かな優しさ。そのたびに安堵しつつ、どこかで罪の重さを感じていた。

何よりも、彼女の性格が本当に好きだった。

柔らかい物腰、必要以上に自分を語らない奥ゆかしさ。時折見せる、素直な笑顔。時折、彼女が見せる一瞬の寂しそうな表情が、なぜか気になった。私の疲れた心には、そんな普通さが何より贅沢に感じられた。

三度目の関係を持った後、彼女はすべてを打ち明けてくれた。

夜のファミレスで向かい合い、アイスコーヒーの氷が溶ける音だけがやけに響いた。彼女は静かに、しかしはっきりと自分の気持ちを語った。

私を誘惑した理由は二つあるという。一つは、私が彼女の部署の課長であり、彼女の出勤状況や評価、福利厚生はすべて私次第だったから。

「正直、課長に気に入られた方が得ですから」と、どこか事務的に微笑んだ。現実的な彼女の言葉に、私は思わず肩の力が抜けた。

もう一つは、同僚たちから私はただの管理職ではなく、グループの会長の親戚——実の甥で、支社で経験を積んでいるだけだと聞いていたから。私に取り入れば、いずれ自分も出世できると踏んだらしい。

「職場の噂って、本当に早いですね」と、美緒は小さく笑った。人事評価や将来への計算、都会のオフィスではよくあることだった。

正直、彼女の話を聞いたとき、私は宝物を見つけたような気分だった。

現実主義者の美緒の一言一言が、妙に心地よかった。打算と計算、それを隠さない彼女がむしろ新鮮だった。時折、彼女が見せる一瞬の寂しそうな表情が、なぜか気になった。

この章はここまで

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