第1話:背徳のはじまり
妻は妊娠七ヶ月だった。ある夜、残業中の静かなオフィスで、私は女性部下・美緒とついに一線を越えてしまった。
蛍光灯が白々と照らすなか、窓の外には東京の夜景がぼんやりと広がっている。その静寂の中、机に散らばった書類の間から美緒の細い指先が伸び、私はもう抑えきれなかった。罪悪感の陰で、かすかな興奮と背徳感が混ざり合う。
ほんの一時の気の迷いだと、自分に都合よく言い訳した。残業明けの疲労で心が鈍っていたのだと。だが、冷たい蛍光灯の下、胸の奥に氷を押し当てられたような違和感が残った。
だが、こういうことは一度起きれば終わりではない。最初からやらないか、あるいは限りなく繰り返すかのどちらかだ。
頭の中に、かつて上司が言った「一度踏み外した道は、元に戻れないぞ」という言葉がよぎる。まさに、その通りだった。
私は三日しか持ちこたえられず、またしても自制心を失った——
会社帰りの満員電車、誰もが無表情でスマホを見つめるなか、私は美緒からのLINEを何度も確認していた。三日間の自制は、ため息ひとつで崩れた。