第3話:剣士とコロッケの真実
春の日差しがまぶしく、そよ風が心地よかった。佐伯光一と私は小さな定食屋の前に立っていた。
遠くから桜の花びらが舞い落ちてくる。新生活の季節、街路樹の下には学生たちの笑い声が響いていた。
「……この戸を斬れってことか?」佐伯光一は眉をひそめた。
「まさか。そんなことしたら、営業妨害だろう。」
私は冗談めかして笑った。定食屋の女将さんに迷惑はかけられない。
「じゃあ、なぜ定食屋に?」
「定食屋は何のためにある?」
「食事だろう。」
「その通り。だからまずは食べよう。」私は佐伯光一の肩に腕を回し、中へと連れて行った。
肩に手を置く仕草は、打ち解けた証。店内は昭和の雰囲気が漂い、木製のテーブルには使い込まれた箸箱が置かれていた。
中には若い娘が一人、忙しく立ち働き、配膳も調理も一人でこなしていた。娘の額には細かな汗が光り、厨房の奥からは味噌汁の香りが漂っていた。湯気が立つ中、揚げ物の香ばしい匂いも広がる。
「ここのじゃがいもコロッケは美味しいよ。」
私はコロッケを一皿頼み、出てくるなり箸を伸ばした。
「君も食べなよ。」
佐伯光一は私を見て、少し躊躇しながらも箸を取って一口食べた。
揚げたてのコロッケの香りが湯気と共に広がる。表面はカリッと、中はホクホク。
やがて客がどんどん入り、店は満席になった。娘は大忙しで、汗が顔を流れていた。
コロッケを噛みながら、私は尋ねた。「剣は何のためにあると思う?」
「人を斬るためだ。」佐伯光一は迷いなく答えた。
私は首を振った。「君の剣には殺気が満ちすぎている。もっと違うものを宿してみたらどうだ。」
「武の本質は殺すことじゃない。救うことだ。」私はさらにコロッケを取った。「剣で人を救ってみろ。」
「……救う?」佐伯光一の箸が止まった。
「そう。」私は微笑んだ。「俺の剣技を学ぶには、まず二つの段階がある。第一は殺生を断つこと。」
「殺生を断つ……どうやって?」彼は真剣に考え込んだ。
「簡単さ。剣で彼女を手伝えばいい。」私は忙しそうな娘を指さした。
佐伯光一はさらに眉をひそめた。「剣でどうやって手伝うんだ?」
「剣でじゃがいもの皮をむいてやれ。」
私は皿を指さした。
「……」
店内に静かな笑いが広がる。剣を握る手が、まさか台所で役立つとは。
さて、次は誰に会いに行こうか――
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