第2話:父たちの復讐
佐伯守人は天才だった。
県の数学オリンピックで優勝し、全国大会では県代表として出場し、全国トップ10に入った。
理系の成績がずば抜けていたため、既に市内一の進学校に特別推薦で合格が決まっており、入試は形式的なものだった。
事件後、教育委員会は彼の答案を早期採点した。その成績は、国語125点(150点満点)、数学150点(満点)、英語141点(150点満点)、物理120点(満点)、化学99点(100点満点)、公民95点(100点満点)。
この成績なら、市内でもトップ5には確実に入る。
試験で悩んで自殺したとは到底考えられなかった。
さらに不可解だったのは、最後の数学の問題を解き終えた後に残した数列だった。
2、15、40、77、165、__
それが、彼がこの世に残した最後のメッセージだった。
彼の「遺言」だ。
この問題は、明らかに佐伯守人の死と深く関わっていた。
捜査チームは教育委員会を通じて、市内の数学専門家にこの問題を送った。
だが、どんなに肩書きの立派な専門家も解けなかった。
警察は厳重な情報管理を指示したが、地方都市では噂がすぐに広まる。
天才が異常な高得点を取り、校舎から飛び降り、謎の数列を残した――町中がこの話題で持ちきりだった。
人々は佐伯守人の死因について様々な憶測をし、噂はどんどんエスカレートしていった。
暴力団による集団カンニングだとか、教師の性的暴行だとか、悪霊の仕業だとか…。
地元の商店街では、昼間から立ち話をする老人たちが、「最近の子は心が弱い」と嘆いたり、「うちの孫も受験で大変だ」と同情したり。週刊誌も面白おかしく記事を書き立て、駅の売店ではすぐに売り切れた。
その後、佐伯守人がうつ病治療の記録があることが判明し、死因はうつ病による自殺と断定して、事件は早々に収束した。
私はこれで事件は終わったと思っていた。
だが、佐伯守人の死は序章に過ぎなかった。
その背後には、はるかに大きな陰謀が隠されていたのだ。私は、春の雨の音を聞きながら、すべてを失う予感に震えていた。