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天女の微笑み、家族の呪縛 / 第5話:天女教団の支配と家族の絆
天女の微笑み、家族の呪縛

天女の微笑み、家族の呪縛

著者: 橋本 陽斗


第5話:天女教団の支配と家族の絆

密室を出てしばらくすると、まばゆい陽光に包まれた。

空には雲一つなく、どこまでも澄み切った青が広がる。春のような温かな風が、頬を優しく撫でていく。

外は賑やかな神社の境内で、参拝者が列をなしてお参りしていた。

鳥居の前には色とりどりの着物を着た人々が並び、絵馬に願いを書き込んでいる者もいた。どこからか太鼓の音が聞こえ、境内にはどこか華やかな空気が満ちていた。参拝者たちは小声で世間話を交わし、子供たちはスマホをいじりながら親の手を引いている。電子掲示板には「厄除け祈願受付中」と案内が流れていた。

だが皆の服装は奇妙で、美咲や私と同じだった。

伝統的な和服ではなく、現代的な衣服と和装が入り混じった、不思議な取り合わせだった。まるで新旧の時代が交錯する異界に迷い込んだような心地だった。

さらに奇妙なのは、賽銭箱にお金を入れるのではなく、長方形の機械で紙をスキャンし、「終わった」と言っていたことだ。

この不思議な光景で、この体の記憶が蘇った。

千年の間に、世界は大きく変わっていた。

ある出来事により修行者の数は激減し、人々は技術を信仰するようになった。

境内の隅には、自動販売機や電子掲示板まで設置されている。神社と科学が融合した、奇妙な近未来の日本だ。

さきほどの人々は「スマホ」という機械でQRコードをスキャンしてお賽銭を払っていたのだ。

残念ながら、尚人の幼少期の記憶ははっきりしているが、最近の記憶は曖昧だった。

「信者・尚人、頭痛はどうだ?」ちょうどその時、老人と弟子が追いついた。「まだ治らぬなら、再び中へ戻った方がよい。外は風が強い、悪化するぞ。」

勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべている。

自分の勝利を確信しているようだ。

「先生、あなたの薬は本当に奇跡です!」私はにっこり笑い、「外の空気を吸ったら、頭痛も消え、体もすっかり元気になりました!」

わざと軽やかに跳ねてみせた。

老人の顔が一瞬曇った。

彼を挑発するつもりはなかったが、さきほど嫌なものを見てしまった。

尚人の記憶に、美咲と出会い、恋に落ち、家庭を築く過程があり、私は嫉妬で胸が焼けそうだった。

今さら絡んでくるとは、面倒を自ら呼び込んでいるようなものだ。

それに、声を上げれば多くの参拝者の注目を集める。

だから密室から出てきたのだ――人前では手出しできまい。

まして、ここは信者たちが集う場所だ。

「皆さん」老人はすぐに表情を変え、群衆に向かって語りかけた。「この者はかつて不治の病にかかり、魂も失い、肉体も苦しんでいた。」

「世の医者は誰一人救えなかったが、絶望の中で彼の信心が天女様を動かし、新たな魂を授かった。」

「天女様は慈悲深く、すべての人を救う。」

老人がそう言い終えると、弟子がすかさず唱和した。

同じ服装の者たちも加わり、やがて境内全体がその声で満ちた。

「天女様は慈悲深く、すべての人を救う。」

「天女様は慈悲深く、すべての人を救う。」

……

その唱和は波のように広がり、声が重なって境内に響きわたった。参拝者たちは安堵と陶酔、そして一部の者はどこか不安げな表情を浮かべていた。宗教的な空気が全身を包み込み、私ですら一瞬、恐怖を覚えた。

神社の大樹がざわめき、鳥たちも一斉に飛び立つ。空気が重くなり、体中の毛穴が総立ちになるほどだった。

やがて声が収まると、黒い和服の老人は私の肩に手を置き、一語一語ゆっくりと言った。

「尚人、今日は家で休むがよい。」

「だが忘れるな、お前の新しい命は天女様が与えたものだ。」

「これからは慎み、善行に励み、しばしば参拝に来るのだ。」

言葉の端々に、逃れられぬ呪縛のような圧を感じた。

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