第4話:呪いの薬と疑惑の老人
美咲と話していると、先ほどの男が密室を出ていった。
畳の上で静かに正座し、美咲の涙が乾くのを待つ間、私はじっと呼吸を整えていた。
しばらくして、黒い和服の老人を連れて戻ってきた。
老人は男の師匠だと名乗った。
弟子の態度からして、かなりの地位の持ち主だろう。
「弟子から奇跡が起きたと聞いてな、直接確かめに来た。」老人は美咲を脇に避けさせ、私の前に立った。
「信者よ、手を見せてくれるか?」そう言って手を差し出す。
私は素直に手を差し出した。その瞬間、気が私の体内を探るのを感じた。
指先から微かに冷たい波動が伝わり、背筋がピンと伸びる。老人の手が細やかに動き、呼吸が一瞬止まる。空気にはピンと張り詰めた冷気が漂った。
その気から察するに、せいぜい中級の修行者レベル。
かつてなら一振りで斬り捨てていただろう。
だが今は、時を待つことを知っている。
前世では、軽率さが姉弟子の死を招き、その後も自分を過信して真の強者に挑み、魂を滅ぼしかけた。
今、この男の正体も分からぬまま無闇に動くことはしない。
それに、今は美咲と穏やかに暮らしたいだけだ。争いごとは極力避けたい。
老人の気が体内を巡り、やがて本当の目的が露わになった――体内の毒を活性化させようとしていたのだ。
何気ない会話に見せかけて、実は命を狙う術を使うなど、まるで江戸時代の忍びのような狡猾さだ。
だが私はすでに毒を消化しており、何も見つけられなかった。
「この薬……本当に飲んだのか?」老人は眉をひそめた。
私はうなずいた。
「ならば、なぜ飲み干さなかった? 先ほど見たが、お前の体はまだ極めて弱い。いつ死んでもおかしくないぞ。」
私は面倒なので、残りの毒を一気に飲み干した。
漢方の苦味が喉を駆け下り、胃の奥で熱を感じた。
老人は満足げに再び術を使おうとしたが、私は彼の手を振り払い、頭を押さえて苦しそうに装った。「ああ、頭が割れるように痛い!」
演技とはいえ、しっかり額に汗をにじませ、芝居がかった声を出した。修行時代、演武会の余興で演技を見せたことも思い出す。
そして美咲の手を取った。「美咲、頭が痛くてたまらない。外の空気を吸いたい。」
彼女に支えられ、密室を後にした。
美咲は心配そうに私の背中をそっと撫で、静かに「大丈夫?」と耳元で囁いた。
案の定、老人とその弟子は引き止めなかった。
二人の視線が背中に突き刺さるのを感じながら、そそくさと廊下を抜ける。畳の香りと古い木の軋みが、妙に懐かしかった。
今のやり取りで、老人の殺意をはっきりと感じた。
理由は分からないが、どうしても私を死なせたいようだ。
薬を飲み切っても死ななければ、今度は本気で手を下してきただろう。
その時は私が一瞬で彼を倒せるが、もし近くに本物の強者がいれば、力を隠しきれないかもしれない。
彼らの口ぶりからして、この天女を崇拝しているようだ。
経験上、崇拝される存在はたいてい一帯を守護する力ある者だ。
日本の田舎町には、必ずと言っていいほど“村の神様”や“守り神”がいる。天女もまた、その一人なのだろう。
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