第2話:敗北と転生の誓い
私は敗北した。
誇り高かった自分が、今や静かに己の無力さを知る。胸の奥で何かが崩れ落ちていく。それでも不思議なほど、潔く受け入れられた。九州の山川を駆け抜け、雲を切り裂き、剣に人生を賭けてきた私が、ついに終わりを迎えたのだ。
あの頃、剣を手に九州を駆け巡り、私の名を聞いただけで各地の道場や流派が震え上がった。
道場主たちは私を見るだけで青ざめ、弟子たちは稽古場の湿った畳の匂いの中、隅でひそひそと噂話をしていた。「あの人が来たら最後、看板も道場も消える」と——そんな声も幾度となく耳にした。木刀がぶつかる音が、今も耳に残っている。
昇天の時、雷鳴をものともせず、一振りで天の門を切り開いた。
稲妻が空を裂き、風が巻き起こる中、私はただ無心に剣を振るっていた。天を切り裂くその一閃は、まるで八幡様のご加護を受けているかのようだった。
私は誇りに満ち、万物を見下ろしていた。
自分こそが天に選ばれし者、誰よりも高みにいるのだと信じて疑わなかった。月夜に一人佇み、遠くに広がる田畑を見下ろすたび、孤独と優越が同居する不思議な感覚が胸に湧き上がった。
自分こそ無敵だと思っていたが、後になって気づいたのだ――私のような存在が十万もいたことに。
まるで昔話の“鬼の棲む山”に自分が迷い込んでいたのだと知ったときのような、恐ろしい現実だった。
それどころか、立ち位置すら定まらないうちに、鉄棒を持った猿(まるで昔話の猿神のようだ)が現れた。
猿神の風貌は、日本の絵巻物に登場する鬼神そのもの。鋭い牙と燃えるような瞳に、全身の毛が総立ちした。
十万の私が束になっても、その毛一本すら触れることができなかった。
その強さは、まるで天地の理に背くものだった。私の剣技も、誇りも、ただ虚しく弾き返されるだけ。
続いて三つ目の武者が現れた。
彼の甲冑は、戦国時代の名将がまとっていたような重厚さがあり、三つ目が怪しく光っていた。彼の登場で空気が一変した。
彼の傍らの犬ですら、私を一撃で踏み潰せるほどだった。その犬は、白い毛並みに赤い首輪をつけ、鈴の音をチリンと鳴らす、因幡の白兎伝説に出てくる神の遣いのような風格があった。
二人が戦えば――槍と鉄棒がぶつかり合い、山は崩れ、天界そのものが揺れ動いた。
天地の鼓動が肌を伝い、思わず耳を塞ぎたくなるほどの轟音が響き渡る。山々が崩れる様子は、幼い頃に体験した地震よりも遥かに恐ろしかった。大気には土と雷の焦げた匂いが充満し、足元が震えた。
そして私は? その戦いの余波で死んだのだ。
正直、情けない話だ。
堂々たる九州の剣豪が、流れ弾で命を落とす――ただの通りすがりに過ぎなかった。
自嘲気味に苦笑しつつ、こんな最期も悪くないのかもしれないと一瞬だけ思った。唇の端がひくつき、肩がわずかに震えた。
だが、ここからが新たな始まりだった。