第3話:消毒液の冷たさと噂の炎上
私は急いでルームメイトたちにこのことを伝えた。
「うちの寮、変な奴に狙われてるかも。最近、私のパンティーがいつも——」
言い終わらないうちに、斎藤菜穂(さいとう・なお)が苛立った声で遮った。
「高橋美羽(たかはし・みう)、最近ちょっと疲れてるんじゃない?無理しないでね。前も私たちがパンティー触ったって言われたし、今度は変な奴?どうしていつも美羽だけ変なことが起きるのかな?」
彼女は急に口を手で覆い、わざとらしく驚いたふりをした。
「もしかして、体調とか…あまりよくない?なんか、そういう時って色々あるらしいし……」
その言葉を聞いた瞬間、他の二人のルームメイトも一斉に私から距離をとった。まるで伝染病患者を見るような目つきだ。
日本の女の子たちは、表面上は穏やかでも、こういう時は一瞬で敵か味方かの線引きをする。沈黙の中に、冷たい空気が流れた。
私は怒りで手が震えた。でも、涙だけは絶対に見せたくなかった。
「菜穂、今朝トイレブラシで歯磨きした?口臭が下水よりひどいわよ」
場が凍りついた。誰もが息を呑み、視線が交錯する。私の言葉は思ったよりも強く響いたようだった。
「図星つかれて怒ってる?」
菜穂はパーマをかけた髪をわざとらしくかき上げ、意地悪く笑った。
「毎日あんな派手なパンティー履いて、誰に見せびらかしてるの?私たちは真面目な子ばっかりなんだから、あんたのせいで巻き込まれたくないわ」
言葉の刃は鋭く、私の胸の奥に突き刺さった。自分でも、こんなに息苦しい空間になるなんて思わなかった。
そう言われると、他の子たちはさらに身を引いた。寮長の森下沙良(もりした・さら)がためらいがちに口を開いた。
「美羽、しばらく部屋を移った方がいいかも……うちの母が、そういうのは服からも…なんて……」
彼女の声はか細く、どこか怯えていた。日本の家庭では、母親の言葉は絶対的な影響力を持つことが多い。
誰かが味方についたことで、菜穂はさらに調子に乗った。テーブルの上の消毒液を手に取り、
「ほら、同じ部屋なんだから、ちょっと消毒しとこう?」
と、鋭いアルコール臭の液体を私にぶっかけた。液体の冷たさが肌に刺さり、服が濡れて肌にぴったりと張り付く。不快な刺激臭が鼻をつく。
ルームメイトたちが驚いて悲鳴を上げる中、私は菜穂の髪をつかんでバスルームに引きずり込んだ。
静かな寮の中で、女子の争いがこんなに激しくなるなんて、誰も想像しなかったはずだ。
「美羽、離して!頭おかしいの?」
彼女の叫び声が寮中に響く。私は無視して、片手で蛇口をひねり、シャワーヘッドを彼女の顔めがけて噴射した。
「やられたらやり返す。汚い口をきれいにしてやるわ」
私は鼻で笑い、水量を調整した。
「ついでに、頭の中の変なものも洗い流してあげる」
「助けて……ごぼっ、ごぼっ……!」
沙良が止めに入ろうとしたが、私は睨みつけて牽制した。
「あなたも洗ってほしいの?」
菜穂の髪が顔に張り付き、マスカラが涙で黒い筋になって頬を伝うまで、私は手を離さなかった。彼女は床に崩れ落ち、泣きじゃくった。
「うううう……」
女子寮独特のしんとした沈黙が戻る。水音と嗚咽だけが、夜の静寂に溶けていった。
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