第1話:逆臣の娘
私の父は逆臣だ。
—幼いころから何度も耳にした「逆臣」という言葉。その重みが、今まさに背筋を冷たく撫でていく。
家財を没収したのは、私の許嫁だった。
—畳の上で沈み込む記憶。あの日、庭の石灯籠の陰に無造作に並べられた家宝の数々。冷たい目をして指示を出す許嫁の背中。その光景が胸の奥で静かに痛む。
鉄の鎖を私の首にかけたとき、彼はかつて花冠を私の頭に載せてくれた頃よりも、はるかに優しい表情を浮かべていた。
—あのときの彼の指先は驚くほど柔らかかった。幼い日、春祭りで頭に載せてくれた椿の花冠。その面影と今の姿が重なり、胸が締め付けられる。
父が斬首され、さらし首となった日、私は平然と母の髪からシラミを摘んでいた。
—誰も泣き叫ばなかった。ただ静かに、日常の延長のように。母の髪に潜む小さな命を、私は指先で潰した。
「もし火があったら、このシラミを焼いて酒の肴にできるのに」と呟いた。
—投げやりな冗談。冷たい牢の中、湿った藁の上で、遠くで夜警の拍子木がコツコツと鳴っていた。母も他の女たちも、黙っていた。
思いがけず、隣の牢で鎖骨に吊るされた若い将軍がその言葉を聞いて低く笑った。
—喉の奥で響く笑い声が、静かな夜の牢獄に広がった。一瞬だけ、こちらもどこか愉快な気分になった。
そんなに面白いの?
—互いに顔は見えないが、ほんの一瞬、孤独が和らいだ気がした。