第1話:明かされた逆転の給与明細
人事部が間違えて新入社員の給与明細を私に送ってきた。
突然のメール通知に、私は思わず画面を二度見した。机の上でスマホが小さく震え、蛍光灯の反射で画面が一瞬白く光った。普段なら同僚宛ての連絡など気にも留めないが、今回は件名に自分の名前と“給与明細”が並んでいた。あれ、今月はまだ確認していないはず——胸の奥がざわつく。
毎月、彼女の手取りは18万円——私よりちょうど10万円も多い。
指先が震えた。自分の給与明細が薄い紙一枚であることを、毎月確認するのが辛かった。だが、他人の、それも新人の明細を見るとは思わなかった。なんという皮肉。
私はいわゆる「ベテラン」で、6年間真面目に働いてきたのに。
定時よりも早く出社し、誰よりも遅く帰る日々。会社の歴史を語れるのは、もう私くらいだ。桜陽メディアの名刺には、少し擦れた“主任”の肩書きが唯一の誇りだった。
彼女はまだ入社3ヶ月。
あどけない顔に、ピシッとしたスーツがどこか似合わない。新人特有の緊張感もすでに薄れ、机に並ぶ文房具だけがピカピカしている。
何もできないし、何も学ぼうとしない。すべての業務で指導役の私に頼りきりだ。
ため息をつくたびに、指導マニュアルの一言一句を思い出す。「根気強く、温かく教えること」。だが、日々の愚痴を誰にも吐き出せず、心の中だけで不満が膨れ上がる。
……まあ、いい。
私は自分の感情を押し殺してきた。和を乱さないことが、日本の職場では美徳だと刷り込まれている。けれど——
給与の逆転現象。古株社員なんて犬以下の価値しかない。
それでも、毎朝同じ改札をくぐり、同じ自転車を駐輪場に停めてから出社する自分が情けなく思えた。