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裏切りの結婚式 / 第1話:駅前のインタビューと消えた誓い
裏切りの結婚式

裏切りの結婚式

著者: 横山 すみれ


第1話:駅前のインタビューと消えた誓い

あるブロガーが行っていた街頭インタビューを目にした。

初夏の湿った空気がまとわりつく都内の駅前。改札の向こうから、制服姿の学生たちが自転車を押して通り過ぎる。蒸し暑い空気の中、どこか遠くで電車の発車ベルが鳴り、歩道には人々の足音や自転車のベル、微かな車のクラクションが混じっていた。ブロガーの持つマイクには「タイムカプセル」と手書きのシールが貼られている。

「5年前の自分に何か伝えたいことはありますか?」

動画の中で、佐藤美咲(さとう・みさき)は年下の恋人の手をそっと握りしめていた。カメラを前にすると、一瞬だけ視線を落とし、指先が恋人の手をぎゅっと握る。その仕草に、彼女の緊張や恥じらいがにじむ。

彼女の声は、恥じらいと優しさを含み、柔らかく響いた。

その声を聞いた瞬間、心の奥に沈めたはずの想いが、ふっと浮かび上がる。髪を耳にかける仕草や、遠慮がちに相手を見上げる目元も、あの頃と変わらない。

「5年前の私が高橋蓮(たかはし・れん)にもっと早く出会えていたらよかったのに。」

隣の青年も微笑みながら、彼女の言葉にうなずく。

「僕も同じ気持ちだよ。」

二人の間には、まるで春先のような穏やかな空気が流れていた。自然と指が絡み合い、互いの存在を確かめるように微笑み合う。

ネットユーザーたちは二人の甘い雰囲気に沸き、次々と祝福のコメントを送っていた。

コメント欄にはハートの絵文字や「尊い」「理想のカップル」といった言葉が溢れ、SNSでは短時間でトレンド入り。二人の笑顔がスクリーンショットで拡散されていく。

だが、誰も知らなかった。5年前は、佐藤美咲と私が結婚した日だったことを。

誰も、私たちの結婚式の写真がアルバムに眠っていることなど想像もしない。

彼女自身さえ、それを忘れていた。

一週間後まで——。

曇り空の日曜の昼下がり、そのブロガーがまた別の街頭インタビュー動画を投稿した。

映像の中で、私はカメラを真っ直ぐに見据え、真剣に言った。

「もしできるなら、直樹(なおき)、佐藤美咲とは結婚しないで。絶対に後悔するから。」

画面の中の自分は、少しやつれて見えた。背広の裾を指先で整えながら、目だけはカメラを離さなかった。

今度は、佐藤美咲がその動画を見た。

この章はここまで

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