第6話:波紋、春の夜に消えず
苦しみながら迷っていると、最愛の妃が突然泣き出した。
「陛下、桜橋でのお約束、まだ覚えていらっしゃいますか?私がここまで体を壊してまで頑張ったのは、すべてあなたのため。何度も祈って、ようやくこの子を授かったのに、生まれても宮中で冷たい目に遭うだけなら、いっそ産まない方がましです」
彼女はお腹を強く叩く。私はすぐに手を掴み、「覚えている、私の息子は正統な後継ぎとして、必ず皇太子に立てる」と口走った。
あの時、逆臣に追われ、傷を負い、目も見えなかった。もし園子が命がけで氷室に薬を取りに行ってくれなければ、私はとっくに死んでいた。疑った私が悪い——そう思う。
「でも陛下、皇太子の母が妃のままでは、私もこの子も立場がありません」
確かに、皇太子は昔から皇后の子がなるもの。その日、私は皇后廃位の詔を止めたが、園子を皇后にする約束は果たしていない。彼女が不安になるのも無理はない。
「皇后には薫家軍があり、父は大将軍。でも私は何もない。ただ陛下だけ。いざとなれば、皇后は私を決して許さないでしょう」
最愛の妃の言葉は警告だった。再び皇后廃位の考えがよぎる。しかし、昨日の清らかで美しい顔が頭を離れない。だが薫家軍がついているのは事実。最近、薫将軍は朝廷で私に反論し、面目を失わせた。彼の娘を寵愛すれば、薫家をますます強くし、園子をさらに危険にさらすことになるのでは?
「心配するな、園子。皇后廃位の詔は、また……」
言いかけた時、弾幕が現れる——
【終わった、クズ竜また愚かな選択w】
【あの時桜橋で助けたの、実は園子妃じゃなかったのに、いつ気づくんだろw】
私は瞳孔を見開き、弾幕を凝視した。だが、それ以上何も現れない。
「陛下?」
呼び戻され、期待に満ちた園子の瞳を見て、喉が詰まる。しばらくしてようやく言った。
「皇后廃位の件は、もう少し考えさせてくれ」
園子妃の微笑みは徐々に消える。彼女は何か言いたげだったが、外から背の高い男が入ってきて跪く。「侍医、陛下、奥様にご挨拶申し上げます」
その男は侍医の衣を着ており、卑屈でも傲慢でもない態度。私は目を光らせ、園子妃の手を握りながら意味深に言った。「西村侍医、やっと来たな。早く最愛の妃を診てくれ。以前私を救って風邪をひき、今は身重だ。何か影響はあるか?」
弾幕は、私を救ったのは妃ではないと言った。ならば、彼女がそのせいで体を壊したはずがない。誰が嘘をついているのか確かめてやる。
西村侍医が前に進み、薬箱を開け、ハンカチを妃の手首に当てる。「念入りに診るように」と私は強調した。
西村侍医は目を伏せて静かに答え、脈診は長く続いた。私の心臓はどんどん高鳴る。
やがて西村侍医は手を離し、はっきりと言った。「三年前、奥様は冷えが体に入り体調を崩されました。長年の治療でだいぶ良くなりましたが、今も気が塞ぎがちで、これが続けば奥様も御子も害されます」
侍医の言葉を聞き、私はようやく安心した。弾幕はやはりでたらめで、私と最愛の妃の仲を裂こうとしただけだ。今はただ、彼女に申し訳ない気持ちでいっぱいになり、皇后廃位の約束をしようとした——その時、弾幕が再び激しく流れ始めた。
外の庭では春の夜風が、竹垣をサラサラと揺らしていた。遠くで鈴虫の声が響く。私の手のひらには、まだ妃の体温が残っていた。静かな夜、心の奥底で波紋が消えることはなかった。
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