アプリをダウンロード
裏切りの夜に抱かれて / 第5話:魂打ちの鞭と覚悟の瞬間
裏切りの夜に抱かれて

裏切りの夜に抱かれて

著者: 相川 すず


第5話:魂打ちの鞭と覚悟の瞬間

場所を選ぼうとしていたその時、突然木陰が私の上に落ち、不安な気持ちになった。目でその影を追うと、雑草に覆われた墓の奥に柳の木が何本も絡み合って生えていた。

柳の枝がわずかに揺れ、葉先が地面をなぞる。その音が、微かな囁きに聞こえた。

ふと、村上萌が書き残した住所——信濃町金河橋柳並木通りの端——を思い出した。柳並木通りはさっき通った山道だ。つまり、その終点?

私は柳の木の方へ進み、枝をかき分けていくと、陰に隠れた奇妙な墓が現れた。急いで近づき、墓石にうっすらと「村」の文字が刻まれているのを見つけた。

指で苔を払うと、古い家紋の輪郭が浮かび上がった。これが、探していた墓に違いない。

さらに驚いたのは、墓石の周囲が彫刻で飾られており、屋根の両端には確かに大きな提灯が浮き彫りにされていたことだ。

彫りの深さが、かつての家の格式を物語っていた。

私は車に戻り、他の道具を持ち出し、村上律子に村上萌を連れてくるよう頼んだ。本当に見つかったと聞いた村上律子は、喜んでいいのか恐れていいのか分からず、全身が震えていた。それでも気丈に娘を抱えて車を降りた。

萌さんの足取りはおぼつかなかったが、律子さんがそっと背中を支えていた。

道具を取ろうとした時、魂打ちの鞭が目に入った。なぜか、さっきまで丸まっていたはずなのに、今はまっすぐに伸び、十一節の桜の木がしっかりと連なり、先端が窓の外の柳の木を指していた。

まるで何かに導かれるように、その鞭が静かに震えていた。

私はそれを腰に差した。桜の木特有のほのかな香りが鼻をかすめ、手のひらにはざらついた木肌の感触が伝わる。微かな温もりが、なぜか心強かった。

墓石は立派だが、盛り土はなく、後ろには大きな石板が地面を覆っている。長年放置されたのか、石板の一部が欠けて、真っ黒な穴が見えていた。

どこか、土の中から湿った空気が漂い出していた。

私は土を払ってバールを石板の下に差し込み、正午の太陽が照りつける中、力を込めて石板を持ち上げた。

「きゃっ——!」

村上律子は慌てて娘の目を覆ったが、自分でも悲鳴を上げてしまった。

石板の下から吹き上がる冷気に、私も思わず息を呑む。

私は石板を脇に押しやり、下を覗き込んだ瞬間、息を呑んだ。石板の下に遺体はなく、ただ無数の木の根が絡み合い、赤い棺を貫いていた。遺体があるはずの場所には、根が人の形を作っていた——頭、首、胴体、手足まで揃い、ただ顔だけがまだはっきりしていなかった。

木の根が息づくように蠢き、空気が一瞬だけざわめいた。

私は灯油缶を取り出し、中に注ぎ込んだ。何であれ、焼き払ってしまうのが一番だ。だが火を点けようとした瞬間、村上律子の腕の中で縮こまっていた村上萌が突然飛び出してきた。彼女は私にぶつかり、手に持っていたライターが棺の中に落ちてしまった。

地面の苔が剥がれ、土埃が舞い上がった。

「萌!」村上律子は娘をつかまえようと駆け寄ったが、村上萌は突然狂ったように私に掴みかかり、引っかき始めた。

私は彼女の手を押さえ、その目が白目を剥いているのに気づいた。

「抑えて!」私は村上律子に叫び、母娘を後ろに押しやった。そして、ためらうことなく棺のある穴の中へ飛び降りた。

——本当にこれで終わるのか。いや、終わらせなければ。子どもたちの寝顔が脳裏をよぎった。

地面の底で、何かが深く呼吸しているような、そんな錯覚に囚われた。私は強く歯を食いしばり、魂打ちの鞭を握りしめた。

——穴の底から、何かがこちらを見ている気がした——

この章はVIP限定です。続きはアプリでお楽しみください。

続きはモバイルアプリでお読みください。

進捗は自動同期 · 無料で読書 · オフライン対応