第5話:ヒロイン登場、兄妹の試練
やがて、直也と茉莉は高校二年生になった。
制服姿もすっかり大人びて、周囲から「京都一の美形兄妹」と噂されていた。
原作で主人公カップルと出会うイベントを、見事に回避していた。
私も油断していた――
春の嵐が吹いたある日、直也が行方不明になった。
執事は人を出して一昼夜捜索した。
町内会にも協力を仰ぎ、近所の神社の掲示板にもビラが貼られた。
翌日、彼は全身傷だらけでようやく戻ってきた。
制服の袖やズボンに泥がつき、顔にも擦り傷が残っていた。
その後ろには、同じく傷だらけの白いワンピースの少女がいた。
ワンピースの裾は少し破れ、靴も泥で汚れている。肩までの黒髪が雨で濡れ、瞳がきらりと光る。
清楚で無垢な顔立ちだが、邸宅の控えめな豪華さを見た瞬間、目に一瞬だけ計算高い光が走った。口元がわずかに動き、微笑みの裏に野心が滲む。
その一瞬の視線の動きは、鋭い勘を持つ者ならすぐに気づくはず。
まずい――家の財産が危ない。
頭の中で警鐘が鳴り響き、私は緊張した。乳母の着物の柄をじっと見つめ、指をしゃぶって気を紛らわせる。
家の医師が二人の手当てを終えた後、
「傷は軽いですが、しばらく安静にしてください」と柔らかな関西弁で医師が告げた。
直也は、気まぐれでハイキングに行った際、たまたまヒロイン・白石楓と出会ったと説明した。
彼は表情を崩さず、淡々と経緯を話した。
二人はうっかり急斜面から転げ落ち、スマホも壊れたが、幸い大きな怪我はなかった。
家の者たちは胸をなでおろし、乳母も「ほんまに無事でよかった」と涙ぐんでいた。
私:「……」
あんな偶然、ありえない。何か裏があるはずだ。
白石が無関係なはずがない。
白石が出てきて、直也が私と遊んでいるのを見ると、
驚いたふりをして言った。「これ、あなたの妹?すごく可愛い!」
その声には、どこか芝居がかった明るさが混じっていた。
直也は、私を褒められるといつも機嫌がいい。
照れくさそうに頬をかきながら、目尻に小さな笑い皺が浮かんだ。
彼は白石を見て、うれしそうに「抱いてみる?」と言った。
「うん、ぜひ!」
白石の目が一瞬輝いた気がして、私は身構えた。
絶対に近づかないで。
心の奥で必死に念じた。
彼女が突然手を伸ばしてきた瞬間、私はこれまでにない大声で泣き叫んだ。
「ぎゃー!」と響き渡る泣き声。家中にこだまするように、悲鳴が広がった。窓の外のカラスが一斉に飛び立つ音がした。
続きはモバイルアプリでお読みください。
進捗は自動同期 · 無料で読書 · オフライン対応