第1話:梅雨の悪夢
私の担当区域で、凄惨な事件が起きた。
窓の外は、鈍い灰色の雲が空を覆っていた。梅雨時のじめじめした空気が、制服の襟元にまとわりつく。その日、どこか胸騒ぎのする朝だったが、まさか自分の管轄で、これほど胸のえぐられる事件が起こるとは思ってもみなかった。小さな町の片隅で、平穏な日常が静かに崩れていく音がした気がした。
6歳の少女が、同じ町内の遊び仲間たちに誘拐され、虐待を受けた——その現場は想像を絶するほど悲惨だった。
現場検証に立ち会った時、畳に染み付いた血の生臭さと、湿った畳の匂い、割れたおもちゃやちぎれたランドセルの紐が無残に転がっていたのを、今もまざまざと思い出す。窓の外からは、遠くの小学校のチャイムがかすかに聞こえていた。警察官である自分でさえ、吐き気を抑えるのに必死だった。あの現場には、まだ彼女の子ども用スリッパが片方だけ残されていた。
さらに恐ろしいのは、彼女が意識のあるまま苦しみを味わい、結局生き残ったことだ。
担当医が静かに「生きていること自体が奇跡です」と呟いた時、私は複雑な思いを抱いた。生き残ったことが果たして彼女にとって救いだったのか、胸が重くなった。
しかし、判決の結果は非常に納得のいかないものだった。加害者は同じ町内の4人の子どもたちで、最年長でも14歳、最年少はわずか9歳だった。
誰もがその年齢にショックを受けた。近所の主婦たちは「あの子が……?」と信じられない様子で囁き合っていた。町内会でも噂話が絶えず、役場の相談窓口には匿名の投書が山のように届いていた。
だが、判決がこの事件の終わりではなかった。
警察署の応接室に、被害者家族のため息と沈黙が重くのしかかった。判決文が読み上げられても、誰も納得する者はいなかった。その静けさが、不気味なほどに印象的だった。
その後の波紋は、私たちの想像を遥かに超えていた。
夜の町には、不穏な空気が広がっていた。町内放送では「子どもたちの安全確保にご協力を」と流れていたが、人々の心の中には、拭いきれない不安と恐怖が根を張っていた。