第1話:自由という名の孤独
私は町で一番自由な子どもだった。
朝から夕暮れまで、私は裸足で田んぼを駆け抜け、野山を走り回った。川に石を投げ、時には泥の中で転げ回り、全身を自然に預けて遊んだ。
町の人たちは私のことを、まるで野に咲く草花のようだと言った。「美咲は誰にも縛られない子だ」——と。けれど、その自由は望んだものじゃなかった。心のどこかで、誰かに大切にしてほしいと、密かに願っていたのかもしれない。
みんなは私をうらやみ、「誰にも縛られない」と言った。
家の前を通る友達が、夕暮れに「美咲、うらやましいよ。うちなんか、すぐ『早く帰ってきなさい!』ってうるさいんだよ」と憧れ混じりの声で話していた。けれど、私はその声に素直に頷けなかった。
でも本当は、両親が離婚して、どちらも私を引き取らなかったのだ。
あの日、雨に濡れた山道の向こうで、母と父が言い争う声が耳に焼き付いていた。私を置いて、二人はそれぞれ別の道へと歩いていったのだ。
だから、八歳の時、山の木造の家に一人残された。
木造の家は杉の香りがして、窓から見下ろす町の灯りが遠く瞬いていた。夏にはカエルの合唱が、冬には雪のしんしんと降る音が聞こえていた。
昼間は平気だった。
学校でみんなと遊んだり、野山を駆け回っている間は、寂しさなんて忘れていた。昼間は太陽が、私の影を追いかけてくれたから。
でも夜になると、山風が唸り、酔っ払った独身の大輔おじさんが窓の隙間から手を差し入れてくる。「美咲、一人で怖くないか?大輔おじさんが一緒にいてやるよ。」
月明かりの下、障子の隙間から伸びてくる手を見て、心臓がバクバクと跳ねた。私は布団を頭まで被り、声を殺して震えていた。山の静けさが、かえって恐ろしかった。