
十年にわたり互いに傷つけ合い、すれ違い続けた夫婦――伊織と絵里。東京の乾いた冬の空の下、ふたりは離婚を決意し、それぞれの孤独と向き合うことになる。病を抱えた伊織は故郷へ帰り、静かに人生の終わりを受け入れようとするが、絵里は過去と後悔に縛られながらも、彼のもとを訪れ続ける。やがて、季節がめぐる中でふたりの間に残されたものは、言葉にならない想いと、白いバラの花束だけだった。 あの日の約束も、もう二度と取り戻せないのだろうか。

十年分の記憶を失った俺の前に、幼なじみであり妻であるしおりは、かつての面影を消し、冷たい視線を向けていた。華やかな都心のマンション、豪華な暮らし、しかし心の距離は埋まらない。ALSの宣告と、戻らない過去。しおりの傍らには、見知らぬ男・昴が立つ。交わしたはずの約束は、現実の波に流されていく。あの日の夏の笑顔は、もう二度と戻らないのだろうか。