Chapter 9: 第9話:爆弾兵と血に濡れた手
私は昼まで寝て、食事を済ませ、千代と一緒にお正月の買い物に出た。市場は人で溢れ、声が明るかった。
午後には郵便局に寄り、父母に衣服や風邪薬を送った。樺太の収容所への包みは、検閲にかかるため厳重に綴じた。
二人は北の刑務所に流され、常に監視がついている。普段は検閲が厳しく、ほとんど届かないが、お正月のときだけは国の方針で家族からの小包が許される。番人たちもその日ばかりは少しだけ目を細めてくれる。
私は包みに手紙を忍ばせ、無事を伝え、健康を気遣うだけで、他には何も書けなかった。手紙は何度も検閲されてから届くのだ。余計な言葉は、届かない。
帰り道、ちょうど柊征二が省庁から戻るところに出くわした。背広の肩に雪を置き、歩幅は落ち着いていた。
彼は私に気づかず、宝飾店の前で品定めをしていた。私は千代を制して、二人でこっそり覗き見た。ガラス越しに、静かな横顔が見えた。
店主は柊征二を知っていて、「柊様、奥様に簪を選びに?」と笑顔で尋ねた。
柊征二は微笑み、二本の簪を手に取り、目がとろけそうなほど優しかった。指先が丁寧に光を撫でる。
「決まりましたか?」
「どちらも似合いそうで、選びきれません」
「じゃあ両方どうぞ!柊様は奥様を大事にされてますね。奥様もきっと喜びますよ」
柊征二は唇を引き締めて笑い、二本とも包んでもらった。包み紙がからりと音を立てた。
私は後ろで見ていて心が躍り、千代も興奮して私の袖を引っ張った。袖口がくすぐったかった。
私は彼の元へ駆け寄ろうとしたが、背後で騒ぎが起きた。
「爆弾を持った男だ!止めろ!」
一人の兵士が暴走し、あちこちで人をはね、通りは大混乱になった。私と千代も人波に押され、隅に追いやられた。悲鳴と怒号が交差した。
柊征二は振り返り、顔色を変えて兵士を追った。
彼は武器も持たず、なぜあんな危険なことを……
叫ぶ間もなく、彼は走って兵士に飛びかかり、爆弾だけを取り上げて地面に投げ捨て、あとは周囲の警官たちと連携して兵士を取り押さえた。兵士はナイフを抜き、彼に斬りかかったが、柊征二は身をかわし、警官の助けを借りて無事に制圧した。彼は昔、士族の家柄で剣術や柔術の素養があったと聞いたことがある。動きは滑らかで、迷いがなかった。
私は呆然と立ち尽くし、柊征二を見つめた。
彼の顔には血が二、三滴飛び、目は狼のように鋭かった。普段の静けさの下に、強さが潜んでいた。
兵士は彼のそばで呻き、柊征二は冷ややかに一瞥し、ナイフを警官に投げ渡して身分証を見せ、「連れて行け」と命じた。声は冷静で、通りに秩序を戻した。
その時、彼は私を人混みから見つけた。
彼は一瞬呆然とし、すぐに険しい表情が崩れた。
「小夜子」
彼は駆け寄り、私を見て手を伸ばそうとしたが、血で汚れているのに気づき、慌てて手を引っ込めた。私を怖がらせたくない――その躊躇が見えた。
私は彼が私を怖がらせたくない、嫌われたくないと怯えているのが分かった。
だが、彼は私を見くびっていた。
私は平静を保ち、何も言わず、袖からハンカチを取り出して彼の手を拭いた。薄い布が赤を吸い、白を戻した。
彼は驚いたが、やがて落ち着き、手を引こうとした。「触るな、汚い」
私はしっかり握り、下を向いてゆっくり拭いた。
軽い口調で、「あなたは首席合格者なのに、どうしてこんな武芸ができるの?」と尋ねた。
彼は目を伏せ、「北は賊が多い。長くいれば自然に身につく」と答えた。
賊が横行する中、彼はどれほど苦労したのだろう。彼の手の傷が、言葉より雄弁だった。
私は鼻がつんとし、泣きそうになったが、必死でこらえた。
「私の簪は?」と私は腰に手を当てて尋ねた。
「今、取りに行く」
「それから梨の羊羹は?忘れてない?」
「買った。平安に持たせて家に送った」
彼は私を見て微笑んだ。
「お嬢様の頼みを忘れるわけがない」その言葉が、何より甘かった。










