Chapter 14: 第14話:別れの告白と貸し借りの終焉
私は写しを隠し、元の記録を元日朝に変装して久我家に返しに行った。襟元にスカーフを巻き、顔を伏せ、足早に。
彼は私が来るのを予想していたようで、人を使って迎え入れた。
「約束は守るな」言い方はぞんざいでも、信頼の形だった。
久我樹は記録を受け取り、ついでに聞いた。「何か分かったか?」
「耳が聞こえないんじゃなかった?」
彼は黙り込んだ。
私は笑い、「この記録はとても役に立った。柊征二と推理した結果、黒幕は烏丸伯爵だと分かった。もうやるべきことは分かった」
「烏丸伯爵?」
彼は驚いたが、すぐに納得したようだった。
「帝都一の権力者だ。証拠があっても告発できない。都中どこも彼の勢力だ」
「それ、柊征二と全く同じこと言うのね」
彼は不機嫌そうに「私と彼を一緒にするな」と言った。
「自意識過剰ね。誰も比べてないわ」
彼は歯ぎしりして、「さっさと帰れ」と言った。
「分かった。久我樹、協力してくれてありがとう。巻き込まれるのを恐れる人なのに、よくやってくれた」
「俺だって石じゃない」
彼は深く息をつき、
「壬生小夜子、信じないかもしれないが、実は最初は君を娶るつもりだった。
前途を捨て、久我家を追い出されても、君を娶ろうと決めていた。
だが、決断が遅れて、柊征二が先に求婚に来た」
言い終わると、彼は急に楽になったようだった。肩の力が抜けた。
私はしばらく驚き、「本当に?ずっと私を嫌ってると思ってた……」
「嫌うわけがない。君が私に尽くしてくれたのは分かっている。…これでおあいこだ。もう気にするな」
彼は顔を背け、「壬生小夜子、できることは全部やった。君が私にしてくれたこと、全部返した。これで貸し借りはなしだ」と言った。彼なりのけじめなのだろう。
私はしばらく黙り、彼もいい人なのに、ただ不器用なんだと思った。不器用な優しさは、時に棘になる。
「分かった、ありがとう」
「礼はいらない」
私はため息をつき、「じゃあ道中気をつけて。将来は官運隆盛、久我家の期待に応えて」
「当然だ。私は必ず名検事になる」
「きっとなれる。赴任先は帝都とは勝手が違うでしょうから、体に気をつけて。美人も多いらしいし、運命の人に会えるかもね」
「それは君には関係ない。じゃあな」
彼は傲然と笑い、馬に飛び乗って去っていった。
長い道に埃が舞い、やがて馬蹄の跡も消えていった。雪がそれを隠し、時間がさらに隠した。










