Chapter 12: 第12話:嘘の小説と夫への告白
柊征二は何も言わず、花火の箱を抱えて入ってきた。私と久我樹を見て、笑みが消え、不安げな表情になった。空気が少しだけ、重く傾いた。
私は心が縮み、慌てて彼に駆け寄った。
「征二さん、お帰りなさい!これ花火?重いのに、私が持つわ!」
「触らなくていい、自分で持つ」
彼が花火を置くと、私はすぐに彼を抱きしめた。「征二さん、最高!手、冷たくない?冷たいわ、温めてあげる」
私は彼の手を両手でこすり、頬に当てて温め、こっそり手の甲にキスをして微笑んだ。指先が少しずつ、血の色を取り戻していく。
彼の目は徐々に安らぎを取り戻した。
そして久我樹に目を向けた。
私も振り返ると、久我樹は軒下でじっとこちらを見て、顔が真っ黒だった。影の中の顔は、感情を隠しきれていない。
柊征二は心からではない礼をした。「久我さん」礼儀の盾で、場を守ろうとした。
久我樹は無視し、私に「記録はまだ見るのか?そんなに読み込むつもりか」と冷たく言った。
しまった。久我樹は私が柊征二に内緒で記録をもらったことを知らない。
でも、後でごまかせばいい。
「まだ見るわ。でも量が多いから、明日返すわ」
久我樹は深く息をつき、「壬生小夜子、これは君が盗んだことにしろ、私が渡したわけじゃない」
「分かった、絶対迷惑かけない」
「必ず守れよ」彼は鼻を鳴らして外套を被り、足早に去った。背中が、わずかな安堵を見せた。
本当に分からない人だ。巻き込まれるのを恐れつつ、わざわざ記録を届け、恩を感じられるのを恐れるように素っ気ない。照れと義理が、彼の中でぶつかっていた。
久我樹が去った後、柊征二は案の定尋ねた。「何の記録だ?」
「え、何でもない、ただの小説よ。あなたは興味ないでしょ」苦しすぎる言い訳だった。
「そうか?」
「そうよ!」
私は笑顔を向けたが、柊征二の目と合った瞬間、言葉を失った。
彼は何も言わず、ただじっと私を見ていたが、目には失望と寂しさがあった。私が壁を壊さない限り、彼は中へ入れない。
結婚当初、彼は私に近づこうとし、私が頼れるように努力してくれた。でも私は自分の苦しみに沈み、何度も彼を突き放した。彼の目は次第に失望と寂しさで曇っていった。
最近はずっと優しくしているつもりだったが、彼にとっては足りないのだ。彼は我慢し、譲歩し、待っているが、私は理由が分からなかった。
今、私はようやく理解した。彼が本当に欲しいのは、飾りの幸せじゃなく、私が彼を信じて頼り、隠し事をせずにきちんと向き合うことだ。
私は考えを改め、柊征二の手を取った。「来て」
私は彼を書斎に連れて行き、記録を見せた。
彼は一瞬驚いた顔をした。
「これは父の事件の記録。私はずっと冤罪を晴らしたくて、久我樹に頼んで見せてもらったの。
ごめんね、巻き込みたくなくて黙ってた……」
「知ってる」
彼は私を見て、ふっと笑った。
「君が何をしていたか、全部分かってたよ。君が自分の口で話してくれて嬉しい」笑いには、安堵が混ざった。
「知ってたの?」
私は驚き、嬉しさと同時に不安になった。
「でも、私がやっていることは危険なの。柊征二、あなたを巻き込みたくない。だから、もしもの時は離縁して……」
言い終わらないうちに、柊征二は私を抱き寄せ、唇を塞いだ。
「私は巻き込まれるのが怖いんじゃない。君に信じてもらえないのが怖いんだ」言葉の重さが、私の胸の不安を押し流した。
私と柊征二は一晩中記録を読み、写しを作った。私は大して分からなかったが、官界にいる彼は多くの隠れた情報を見抜いた。行間に潜む意図を、指でなぞるように解いた。
彼は糸を解くように筋道を立てた。










