第6話:饅頭と聖女と凍える夜
神田の棒はそれほど強くなく、服が破れた程度だった。
だが雪乃は怯えてしまい、夜には微熱を出した。
私たちが宿舎に押し込められたとき、雪乃は正之の腕に寄りかかって震えていた。
しばらくして、ぼろをまとった囚人たちが他の護送隊からもやってきて、同じ宿舎で一夜を明かすことになった。
神田はあくびをしながら布袋を投げ入れ、冷たく硬い饅頭が床に叩きつけられた。
東条家の人々は何食も空腹だったので、体面も忘れて奪い合いになった。
私はその光景をぼんやりと眺めた。前世も同じだった。ただし私が奪う側だった。
「涼、そんなに争って体面を失って……」と静江は眉をひそめた。
知月もうなずいた。「お義姉さん、この世には公平がある。自分のものは争わなくても手に入るのよ。」
私は奪った饅頭を正之に差し出した。「食べて。」
正之はそれを叩き落とした。「人として、こんな汚い物を食べてはならぬ!」論語気取りで言う。
雪乃はため息をつき、饅頭を拾い上げて隣の囚人に渡した。
囚人は彼女を聖女のようだと褒めた。
静江は私の手をなだめるように叩いた。「涼、商家の娘だから分からなくても、私は気にしないわ。あとで官吏から食べ物を買ってきてね。」
私が我に返ったときには、饅頭はすでになくなっていた。静江は気にせず口に詰め込み、知月は痩せた女を蹴飛ばして半分の饅頭を奪い取った。
正之は力に任せて二つ奪い、汚れも気にせず食べていた。
雪乃は皆のがっつく様子を見て、何度も唾を飲み込んだ。
「正之様、私にも一つ分けて……」
正之は身をそらして雪乃の目を見ようともしなかった。「病気なんだから、こんな硬いものは消化に悪い。」
雪乃は仲の良い知月に向き直った。「知月……」
知月は涙をこらえながら最後の一口を飲み込み、「義姉さん、つらいでしょう。でも我慢して。寝ればお腹も空かなくなるわ。」
静江は隅で目を閉じていた。
雪乃は東条家の人々を見つめ、目の輝きが徐々に消えていった。
大粒の涙が次々とこぼれ落ちた。
彼女と正之は幼馴染の仲だった。
なのに、彼女は正之の早逝した兄と結婚し、未亡人となった後、二人は密かに関係を持つようになった。
今世、華やかな後ろ盾を失うと、彼女の少年郎も、東条家の人々も冷たくなった。
結局、風間仁が見かねて、翌朝出発前に雪乃に生姜湯を飲ませた。
雪乃は汗をかきながら何とか乗り切った。
そして、彼女は私のそばを離れなくなった。










