第5話:厠ひとつで崩れる体面
「涼、着替えたい?」
雪乃が私の袖をそっと引き、蚊の鳴くような声で言った。
私は静江と知月を一瞥した。二人ともぐずぐずしている。
私は心の中で察した。
食事のとき、彼らは饅頭が固くて粗末だと食べず、水ばかり飲んでいた。
今になって小用を足したいのだろう。
前世では私が厚かましく官吏に頭を下げ、頼み込んでいた。
彼女たちは得をしつつ、道徳の高みから私を非難した。
私は雪乃ににっこり笑った。「私は行かないわ。」
そして足早に歩き出した。
三人の女は腹を押さえて顔を真っ白にし、押し合いへし合い、静江が雪乃を押し出した。
雪乃は涙を浮かべ、正之の袖をつかんだ。「正之様、私たち……」
正之は袖を払って眉をひそめ、「俺は男だ、女のことなど知らん!母を世話し、妹の面倒を見るのはお前の務めだ!」
私は包みの中の干し肉をかじりながら、たかが厠に行きたいってだけで、正之はもう雪乃の相手役じゃなくなるのか、と心の中で呟いた。
雪乃は仕方なく、愛想の良さそうな官吏・神田三蔵に頼みに行った。
私は首を振った。神田こそ一番厄介で、見かけは朴訥だが実は一番ずる賢くて金にうるさい。頼み事は銀を積まないと動かない。
むしろ口が悪い風間仁の方が、面倒を見てくれることがある。
案の定、雪乃が神田に頼むと、神田は竹の棒で雪乃を小突いた。雪乃は呆然として、泣くことも忘れていた。
正之が助けに行き、雪乃は大声で泣き、静江と知月は彼女を責め、神田は怒鳴りながら竹の棒を振り回し、場は混乱した。周囲の人々は見て見ぬふりをして、目を逸らしていた。
結局、東条家の人々は私を睨みつけた。
まるで「なぜお前が引き続き損な役回りをしないのか」と問うように。
「涼、お前はなぜ無関心でいられる。俺の妻なら、こうした雑事をきちんと取り仕切るべきだろう!」
正之は私を怒鳴りつけ、まるで雪乃を打ったのが私であるかのようだった。
私は眉を上げ、わざと大げさに口を手で押さえ、干し肉を飲み込み、「私は商家の出だから、義姉みたいに世間を知らなくて。こわくて何も言えないの!」と叫んだ。
「今後は、書に通じた皆さまにお任せします――東条家の体面のためにね。」
背後から吹き出すような笑い声が聞こえた。
私は手の残りカスを払い、げっぷをして水筒の砂糖水をあおった。










