雪の果て、私だけの自由を求めて / 第4話:麻袋の聖人たちと若い官吏
雪の果て、私だけの自由を求めて

雪の果て、私だけの自由を求めて

著者: 内田 葵


第4話:麻袋の聖人たちと若い官吏

正之は壊れた竹笛、静江は花の種、知月は竹の刺繍入りのハンカチ、雪乃は自作の絵を抱えていた。

本当に食べ物にも衣服にもならないものばかりだ。

静江は無理に笑い、私の包みをちらちら見ていた。「涼、本当に一文もないの?」

私はため息をつき、正之を見て、限りない悲しみを込めて言った。「さっき友人がくれた金銀は、あなたが突き返したじゃありませんか。」

正之はその場で固まった。

冷え込みは一段と厳しくなっていく。

体の弱い東条家の人々は身を寄せ合い、まるで子羊のように哀れだった。

年配の官吏、神田三蔵(かんだ さんぞう)はため息をつき、荷車からボロボロの麻袋を何枚か投げた。「着なさい、凍え死なれたら面倒だ。」

破れた麻袋でも、凍死寸前の人には宝物だ。

争わない知月が真っ先に飛びつき、比較的きれいな麻袋を取った。

白百合のように儚げな雪乃と仲の良い知月が同じ麻袋を選び、どちらも譲らず、引っ張り合いになった。

静江は「体面が……」と呟きながら麻袋を身に着けた。

麻袋は三つしかないのに、彼らは四人いる。

名士・正之は気まずそうに立ち尽くしていた。

「兄さん、私が体が弱いの、知ってるでしょ。」

「正之様、初めて会ったとき、一生面倒を見るって言ったじゃない。運命って残酷ね……」

背後からはっきりとした嘲笑が聞こえた。

私も笑いたくなった。何が名家だ、私が綿入れを譲らなければ、ボロ麻袋一つで仮面が剥がれる。

「涼、お前は余ってる綿入れがあるくせに、見て見ぬふりか、所詮は銭勘定の女だ!」

そう言いながら、みっともなく私の包みを奪おうとした。

だが突然、足を払われて、私の前に転がった。

風間仁(かざま じん)という若い官吏が悠然と口を開いた。「堂々たる男が妻の嫁入り道具を奪うとは、名家も名ばかりだな。都に戻ったら皆に知らせてやろう。」

そう言いながら、もう一つ麻袋を正之の前に投げた。「さっき一つ忘れてた。」

正之の顔は紫色になり、やがて灰色に沈んだ。

私は彼に笑いかけた。彼らは私の父から大金を受け取っている。

東条家にはまだ帝都に娘がいるから、死なせはしないだろう。

だがそれだけだ。

この移送の旅は、まだ始まったばかりだ。

あなたへのおすすめ

初雪の日から、白髪になるまで一緒にいよう――僕が“当て馬幼馴染”だった世界の果て
初雪の日から、白髪になるまで一緒にいよう――僕が“当て馬幼馴染”だった世界の果て
4.8
仙台の灰色の空と欅並木、凍える冬の街で、僕は幼なじみの美羽と二十年の季節を重ねてきた。物語の“当て馬幼馴染”として、彼女の心が主人公へ引き寄せられていくのを静かに見守るしかなかった。約束を破られた誕生日、冷たいケーキの甘さが胸に沈む。やがて僕はこの世界からログアウトを申請し、別れの準備を始める。思い出を辿り、出会いの場所を巡りながら、彼女との最後の初雪を迎える。消えていく記憶の中で、残されたのは静かな愛と痛みだけ。「初雪の日から、白髪になるまで一緒にいよう――」その言葉は、もう誰にも届かないのだろうか。
雪解けの輪郭に、僕はもう家族を呼ばない
雪解けの輪郭に、僕はもう家族を呼ばない
4.5
雪の降る東北の町で事故に遭い、家族の冷たさに人生を奪われた晴樹は、二度目の人生を与えられる。今度こそ優しさを捨て、冷静な論理で家族の運命に立ち向かうことを決意した。配信という新たな武器で家族の本性を世にさらし、かつて自分が味わった絶望を静かに返していく。季節が巡り、因果が静かに収束していく中、晴樹は雪解けのような自由を手に入れる。家族の物語は、もう彼の人生の輪の外側で静かに終わろうとしていた。 それでも、あの雪の記憶は本当に消える日が来るのだろうか。
冬の港に影が落ちて、春の光が射すとき
冬の港に影が落ちて、春の光が射すとき
4.9
形だけの結婚生活に終止符を打つ日、静かな丘の街に冬の気配が忍び寄る。幼なじみとして二十年寄り添った小雪との別れは、静かで痛みを伴うものだった。湊は母の看病や離婚の現実に揺れながらも、自分を大切にしてくれるひよりの温かさに少しずつ心を解かれていく。すれ違い、諦め、そしてようやく訪れた新しい愛のかたち。遠ざかる影と、差し込む光。そのどちらも胸に残したまま、湊は静かに歩き出す。 本当に、大切なものはどこにあったのだろうか。今度こそ、自分の幸せを信じていいのだろうか。
雨上がりの家を出て、私は私になる
雨上がりの家を出て、私は私になる
4.5
八年付き合った恋人に裏切られ、実家の冷たい家族と再び向き合うことになった美緒。子どもの頃から差別と孤独に耐え、愛を渇望し続けた彼女は、家族の中で自分だけが居場所を見つけられずにいた。偽物の彼氏との偶然の再会や、父との静かな絶縁を経て、長年縛られてきた関係から静かに解き放たれる。雨の町で、誰にも頼らず自分の足で歩き始めるとき、彼女の心に初めて静かな自由が訪れる。最後に残る問いは、「本当の愛や家族は、どこかに存在するのだろうか?」
雪の下に残る祈り――篝木村の姉弟と因果の終わり
雪の下に残る祈り――篝木村の姉弟と因果の終わり
4.8
雪深い篝木村で生まれた姉・紗世は、顔に大きな痣を持ち、村人からも家族からも疎まれていた。母の冷たい仕打ちと、村の古い因習の中で、彼女は静かに絶望に沈んでいく。唯一の救いは、弟・蓮の存在だけ。しかし、ある夜の出来事をきっかけに、紗世の運命も村の静寂も音を立てて崩れていく。復讐と愛、憎悪と祈りが交錯する中、蓮は何を選び、何を断ち切るのか。すべてが終わった時、雪の下に残るものは、果たして赦しなのだろうか。
雪原に残る赤糸 ――義経、松尾山にて夢と現の狭間を駆ける
雪原に残る赤糸 ――義経、松尾山にて夢と現の狭間を駆ける
4.6
身を切る西風と降りしきる雪の中、鎌倉の獄舎で短刀を見つめる義経の心は、過去と現在を揺れ動く。戦乱の果てにすべてを失い、悔恨と静かな諦念の狭間で記憶の波に身を任せる。その意識が溶けるように薄れた時、義経は突如として松尾山の砦に立ち、時代を超えた戦乱の只中で源四郎やお文と出会う。裏切りと忠義、恐れと誇りが錯綜し、命をかけた最後の瞬間が静かに訪れる。赤糸の鎧が雪を染め、風がすべてを包み込む中、義経はひとつの問いを胸に突き進む――あの日の約束は、今もどこかで灯っているのだろうか。
義姉のために皇太子を堕とす夜
義姉のために皇太子を堕とす夜
4.9
義姉の笑顔だけを求めて生きてきた庶子の私は、彼女の命令で皇太子殿下に手を染める。しかし“脇役”の運命を嘲笑う弾幕と、冷たい家族の中での孤独が私を追い詰めていく。禁断の薬と涙の謝罪の果て、私は本当に誰かに愛される日は来るのか――。
雪解けを待つふたり、帝都の灯が揺れる夜に
雪解けを待つふたり、帝都の灯が揺れる夜に
5.0
家の没落と共に、愛のない政略結婚を受け入れた小夜子。冷え切った夫婦生活の中で、彼女は夫・柊征二の寡黙な優しさに気づかず、孤独と諦めに沈んでいた。死を選んだ先で彼の深い悲しみを目の当たりにし、生まれ変わった小夜子はもう一度だけ彼と向き合う決意をする。時は大正、帝都の冬。過去と未来が静かに交差し、二人はようやく心を重ね始める。幸福はいつも手のひらの温度の中にあるのだろうか、それとも雪解けを待つしかないのだろうか。
七十年目の春、待ち続けた妻が自由になる日
七十年目の春、待ち続けた妻が自由になる日
4.9
八十九歳の静子は、戦争で亡くなったはずの夫・雅人と再び出会う。新婚のまま彼を待ち続けた七十年の孤独と、知らぬ間に彼に裏切られていた事実。義父母や村社会のしがらみ、そして自らの人生を取り戻すための静かな闘い。二度の人生を経て、静子はようやく自分のために歩き出す。長い歳月の痛みと再生の先に、静子は本当の自由と静かな誇りを見出せたのだろうか。
雪の村に咲いた復讐の花――母と娘、十八年の沈黙を越えて
雪の村に咲いた復讐の花――母と娘、十八年の沈黙を越えて
4.9
雪に閉ざされた久那坂村。澤渡家の娘・花は、母・陽子が村に「外」から連れて来られた女性であることを幼い頃から知っていた。母は村の因習と暴力に耐え、やがて家族も村人も巻き込む静かな復讐へと歩み始める。十八年分の傷と沈黙、母娘の間に流れる言葉にならない絆。最後に母を抱きしめ、花は自分自身の選択を下す。過去と決別したその先に、微かな春の光は差し込むのだろうか。