第8話: ケーキが語る殺意
いや、おかしい!直感が首を掴んだ。
俺は重大なことを見落としていた!忘れたふりをしていた何かが、机の上にあったはずだ。
驚愕しながらテーブルを見た。目がそこに釘付けになった。
ケーキ!夕子が買ってくれたクリームケーキが消えている!あの白い山が、跡形もない。
俺はすぐ立ち上がり、部屋を見回した。椅子の下、流しの脇、全部見た。心臓が早鐘を打った。
夕子は胃腸が弱く、クリームを食べるとお腹を壊す。だから食べるはずがない。冷蔵庫にも入れていない。
唯一の可能性は、昨日父が壊して食べたということだ!あの手づかみの白さが、まだ頭に残っている。
俺は部屋中を探した。目が乾き、指先に埃が付いた。
やはり、テーブルのネジの隙間にピンク色のクリームが残っていた。乾いて薄い皮になっていた。
俺はテーブルを抱きしめ、心の中で嵐が巻き起こった。昨日、本当に父を殺したのだ!現実の重さが、胸で音を立てた。
興奮とともに、深い困惑に陥った。では、遺体はどこに?理屈の空欄が広がった。
俺はベッドに座り込み、冷静になろうとした。紙とペンがあれば、書き出したかったくらいだ。
一つ目、父は死にきれず、夜中に逃げた?頭の中で可能性に番号を振った。
ありえない。あの性格なら、目が覚めたらまず俺と夕子を殺しに来るはずだ。ビニール袋で包まれていて、抜け出すなら絶対音がする。俺が気づかなくても、夕子なら絶対に気づく。床板は小さな音でも響く。
二つ目、夕子が見つけて処理した?彼女の足音を思い出してみる。
夕子は小柄で細い。父は背が高く、体格も重い。夕子一人で遺体を運ぶのは不可能だ。ロープも台車もない。
三つ目、神様が父を自動的に消した?都合の良い奇跡にすがるには、俺は冷めすぎている。
そんなことがあるなら、そもそも父は戻ってこなかったはずだ!奇跡はいつも、最後に裏切る。
考えれば考えるほど頭が痛くなり、俺は自分でベッドの下に潜ってみることにした。答えが足元に落ちている気がした。
昨日遺体を置いたのと同じ姿勢で横になり、消えた謎を探ろうとした。頬に埃がつくのも構わなかった。
ふと見上げると、ベッド下の板にも血が飛び散っていた。見落としていた細かい斑点が、そこそこあった。
どれだけ拭いたか分からないが、ようやく終わった。指先が痛くなり、唾の味が薄まった。
俺は深く息を吸い、凝った肩を動かして這い出そうとした。膝に力を入れ、ゆっくりと体をずらした。
そのとき、鳥肌が背中から頭まで一気に走った。皮膚が内側から縮んだ。
ベッドの外に、音もなく一足の足が立っていた!見えてはいけないものを見てしまった感覚。










